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自然を解釈する心―生物のつながりを物語に

山極寿一 京都大学総長、ゴリラ研究者

 このたび、日本学術会議の中に「ワイルドライフサイエンス分科会」を立ち上げることになった。生態学、哺乳類学、野生動物学、獣医学、霊長類学、人類学を専門とする学者のほかに心理学者が加わっているのが特徴である。自然の一部としての人間存在のあり方を、心の働きも含めて科学していこうという意図がある。

 この2月にキックオフのシンポジウムを、世界遺産に登録されている屋久島で開き、「森、人、心の由来をめぐって」と題してさまざまな分野の人々と意見を交わした。とりわけ今回は、自然の見方には科学だけではとらえきれない一面があると考え、二人のお坊さんをお呼びし、地元の屋久島町からも山岳信仰にもとづく「岳参り」という年中行事のお話をしていただいた。大変心に残る話が多かったので、ここに記させていただくことにする。

 近年、生態系サーヴィスという概念によって、生物多様性の保全により人間が受ける恩恵を科学的な根拠によって説明することが可能になった。しかし、自然と人間の関係にはそれぞれの土地で育まれてきた歴史によってさまざまな違いがある。とくに中・大型動物は、人間と直接利害関係をもつことが多く、古来人間の心の中に深くしみついてきた。それは宗教から見た自然観や人間観に色濃く反映されている。

 法然院(京都市)の梶田真章貫主によれば、人間が抱える苦悩や問題をこの世だけでは解決できないものとするのが輪廻の思想である。生きる時間の違う植物や動物の間で暮らすことによって私たちはそれを実感できる。

 樹木葬を推進する祥雲寺(岩手県一関市)の千坂げん峰(「げん」の漢字は山へんに彦)住職は、

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