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3・11後の目で、宇宙とJAXAを見直す

尾関章 科学ジャーナリスト

 原発ほどの切実感はなく、消費増税の陰に隠れ、そして相変わらず政局の駆け引きにさいなまれて、ひとつの法案が国会でたなざらしになっている。 

 「内閣府設置法等の一部を改正する法律案」。2008年にできた宇宙基本法の精神を受けて宇宙開発の体制を整えよう、という法案だ。

 宇宙政策に大きく影響を与える法改正のはずだが、ほとんど議論がない。あっても、基本法ができるときにあった議論をなぞっているように思う。

 去年3月11日の東日本大地震とそれに伴う福島第一原発の事故で、私たち日本列島の住人は科学技術に対する見方が一変したはずだ。なぜ、「3・11後」の新しい目で宇宙開発を考え直してみないのか。これが、私がこの論考で言いたいことだ。

 さて、今回の法案は「内閣府設置法等」とあるように、一つだけの法改正ではない。

 内閣府設置法そのものの改正では、内閣府に宇宙開発利用政策の企画、立案、調整機能を集約して、そこに宇宙政策委員会を設けることをめざす。首相の諮問を受けて宇宙政策を練ることなどを任務とし、勧告の権限ももつ委員会だ。

 もう一つ、宇宙航空研究開発機構(JAXA)法の改正では、現行法でJAXAの業務を「平和の目的に限り」と条件づけているのを緩め、「宇宙基本法第2条の宇宙の平和的利用に関する基本理念にのっとり」という、含みをもたせた表現に改めようとしている。

 ここには、21世紀になってから日本社会を引っ張ってきた二つの指導原理が投影している。それは「トップダウン」と「グローバル」だ。

 宇宙政策の元締を内閣府とするというのは、宇宙開発を進めるにあたって首相の権限を強めていこうということだ。この数年、国内政治では、「トップダウン」の仕掛けがないことを嘆く声が多く聞かれるようになった。新型インフルエンザや原発事故など、危機管理が求められる出来事に遭遇して、政治家の指導力欠如や省庁の縦割りが厳しく指弾され、その裏返しとして「司令塔」の待望論が高まっている。

 これまで宇宙開発の仕切りは、旧科学技術庁、旧宇宙開発事業団(現JAXA)が民生用ロケットを、旧文部省が科学用ロケットを受けもつという歴史的経緯を踏まえて、多くを文部科学省が担ってきた。それは、首相を本部長とする宇宙開発戦略本部ができても大きく変わっていない。ところが、衛星などの応用が進むにつれて宇宙開発に関係する省庁は増え、省庁の枠を超えた政策決定の必要はますます高まってきた。そんななかで「司令塔をつくれ」は合言葉になっているように思う。これに応えて今回、首相のおひざ元に「司令塔」を置こうというわけだ。

 もう一つの「グローバル」は、グローバルスタンダード(国際標準)志向と言うべきか。 小沢一郎流の「普通の国」論に一脈通じるが、日本も多くの先進工業国と同じように安全保障に目を向けるべきだ、という考え方が背景にある。

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