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福島にいま必要なもの

高橋真理子 ジャーナリスト、元朝日新聞科学コーディネーター

がれきの広域処理をめぐる議論が尽きない。ふと、福島県民の気持ちを思う。福島県のがれきは最初から広域処理の対象から外されている。そういう説明がなされると、議論している人たちの間にほっとする空気が流れる。賛成派も反対派も、そのときは同じ気分になるらしい。だが、それを目の当たりにする福島県民は、どんな気分になるのだろう。そもそも、広域処理をめぐるニュースを福島県民はどんな思いで聞いているのだろう。

 「長期汚染地域」。嫌な言葉だが、福島の一部がそうなったことは事実だ。それを受け止め、その影響度を判断し、そして福島で暮らし続けることを選ぶ。そういう人たちがいる。避難して、もう戻るまいと思っている人たちがいる。戻りたいと思っている人たちがいる。戻れるのかどうか悩んでいる人たちがいる。県外に避難した人も、県内に避難した人も、とどまっている人も、それぞれに葛藤をかかえる。それが福島の「いま」だ。

 そうした人たちの心を支えようとする動きの一つ、「たむらと子どもたちの未来を考える会(AFTC)」の活動が注目されている。

 田村市は、原発が立つ沿岸部(浜通り)と県中央の郡山市や二本松市の間に広がる阿武隈高原にある。市の東端は福島第一原発から20キロ圏内で警戒区域となり、その外の30キロ圏内は緊急時避難準備地域だった。昨年9月に20~30キロ圏内の指定が解除され、今年4月から20キロ圏内が「避難指示解除準備区域」に変更された。空間放射線量は、福島市や郡山市などの中通り地域より低い。

 そんな田村市と、隣接する小野町、三春町を合わせた「たむら」の人々が、事故後間もない昨年5月に作ったのがAFTCだ。代表の白石高司さん(株式会社白石モータース社長)は、会発足時に次のような挨拶をホームページに載せた。

 「たむら」の基幹産業である農畜産業に対して、根拠のない風評は、大きな打撃を与え、同じく工業・商業などの経済活動にも、風評被害が徐々に発生してきている現在、今後私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか。

 ここ「たむら」が好きで、ここに住んでいることが大きな自慢で、今までもこれからも、ずっとここに住んで仕事をして生活を支え、子どもを育て、愛する人たちに囲まれながらごく普通の生活をしていきたいのです。

 私たちの住む「たむら」は、避難規制のある福島第一原発30km圏内と、隣り合わせの位置になります。それだけに、ここに住む私たちを気遣う方々がたくさんおります。

 福島県から遠く離れた方より、避難のお誘いもあります。子どもたちや出産を控えている人だけでも、とやさしいお言葉をたくさん頂いております。

 放射線量だけでみれば、堅固な阿武隈山地に支えられ、福島県の中央地域よりも安全だと思える地域なのです。だから「たむら」に住んでいたいのです。

 「たむら」の未来を担う子どもたちに、この地を託すためには、なにをどのようにしたら良いのか教えてください。

 活動の柱は、勉強会だ。講師を買って出たのは、

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