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「鎮守の森セラピー」〈上〉

コンビニより多い「緑」がある

広井良典

 本欄で昨年5月に「鎮守の森・自然エネルギーコミュニティ構想」について書いた。全国に8万カ所以上存在する「鎮守の森」と一体になった自然エネルギー拠点の整備というアイデアだが、それとも連動する試みとして、先日、「鎮守の森セラピー」という、たぶん世界初の実験をゼミの学生たちとともに試みた。本稿はその報告。肩の力を抜いた「夏休み企画」としてお読みいただければ幸いである。

自然とのかかわりを通じたケア
 私はこれまで「ケア」というテーマで多少の研究を重ねてきたが、その中で「自然とのかかわり」が、ケアにとって重要な意味をもつと考えるようになった。

 通常、ケアという言葉は「ケアする・ケアされる」といった具合に、いわば人と人との1対1の関係のようにとらえられることが多い。いわば「ケアの1対1モデル」ともいうべき理解である。けれども、ケアにおいて最終的に大切なことは、その人がコミュニティあるいは社会の中でふつうに生活をしていけるようになることだ。言い換えれば、「コミュニティとのつながり」をもつことがケアにとって重要である。さらに、コミュニティというものは「真空」の中に宙に浮いて存在するものではなく、その基盤には「自然」というものが存在している。

 けれども現代人は、概してそうしたコミュニティや自然とのつながりを失いがちで、それが、さまざまな心身の不調やストレスなどの根本的な原因となっているのだろう。このように考えていくと、「ケア」という営みは、個人をコミュニティそしてその根底にある自然に「つないでいく」ことに一つの本質をもつという考えが生まれる。それを示したのが(図)である。

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 話がやや理念的になったので、具体的な内容に進もう。「自然とのつながり」の重要性ということをいまケアとの関係で述べたが、このようにして浮上してくる「自然とのかかわりを通じたケア」については、これまでも園芸療法、森林療法などといった、さまざまな試みが展開されてきており、後者については、以前からたとえば東京農業大学の上原巌教授が日本国内で先駆的な活動を進められている(最近の著作として上原巌監修・日本森林保健学会編『回復の森――人・地域・森を回復させる森林保健活動』〈川辺書林〉など)。

「鎮守の森」を再評価する
 私はこうした「自然とのかかわりを通じたケア」、とくに森林療法のような試みは、自然とのつながりを失いがちな現代人、とりわけ東京などのような大都市圏生活者にとって非常に重要な意味をもつと思ってきた。しかし、考えてみればすぐわかるように、そうした大都市圏では、まさに大都市であるがゆえに「自然」が不足しており、ましてや、森などは縁遠い存在であるという現実がある。都会人が森にふれたいならば、東京を1、2時間かそれ以上離れて遠くの場所に行くしかない(実際、私も頻繁に八ヶ岳近辺に行っている)。

 しかし待てよ、話は本当にそれで尽きているのか。 ・・・続きを読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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