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「鎮守の森セラピー」〈下〉

まちの小さな「緑」を生かす

広井良典

 ケアにとって「自然とのかかわり」は欠かせない。そんな関心から試みたのが実験的な「鎮守の森セラピー」である。

 実現に至った背景には、全国森林インストラクター会の理事でもある宮下佳廣氏との出会いがあった。氏は2005年に大手企業を定年退職されたあと、企業人時代に十分果たせなかった根本的なテーマの探求に挑みたいと思い、千葉大学大学院の園芸学研究科(環境健康学領域)に入学した。そこで、園芸活動や自然とのかかわりと、人間の心身の健康との関係について研究を進められ、農学博士の学位までとられたという経歴の方である(博士論文のテーマは、病院緑化と患者・職員の意識に関する研究)。

 宮下氏は、私の大学院ゼミに昨年度後期から参加されていたが、「自然とのかかわりを通じたケア」では、狭い意味での物理的自然だけでなく、なんらかの精神的な要素を含めて考えていくべきだ、という私と同様の関心をもっており、そうしたやりとりの中で今回の「鎮守の森セラピー」が実現することになった。

拡大千葉県市川市にある白幡天神社

 私は学部のゼミでは、「コミュニティ」や「ケア」、(ブータンの「国民総幸福量〈GNH〉」の議論のような)幸福と経済、まちづくりや地域再生など、現代社会のさまざまな課題を幅広くとり上げており、こうしたテーマへの学生たちの関心は高い。そこで学部3年ゼミの一環として、去る6月、千葉県市川市にある白幡天神社を訪問し、その中で「鎮守の森セラピー」、すなわち「都市における鎮守の森を活用した森林療法の試み」をおこなった。そのイメージは、写真をご覧いただければ幸いである。

拡大地球環境、現代社会、そして鎮守の森……パワーポイントで話を聴いた

 訪問の前半では、同神社の宮司である鈴木啓輔氏より、地球環境問題と現代社会のあり方、それと鎮守の森とのかかわりについてパワーポイントでの説明をうかがった。通常の宮司像からはやや意外なことに、鈴木氏は化学専攻の工学博士でもあり、現在も大学の講師を務めておられ(環境論関係)、お話の内容も文理融合的ないし自然科学的な知見とクロスオーバーしたユニークな「鎮守の森」論で大変印象的だった。

拡大目をつぶり、木に触れて、静かに黙想

 そして、そのあと上記の宮下氏のガイダンスのもとでおこなったのが「鎮守の森セラピー」である。 ・・・続きを読む
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筆者

広井良典

広井良典(ひろい・よしのり) 京都大学こころの未来研究センター教授(公共政策・科学哲学)

1961年生まれ。84年東京大学教養学部卒業(科学史・科学哲学専攻)。厚生省勤務、千葉大学法政経学部教授を経て現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員研究員。社会保障、医療、環境などをめぐる政策研究からケア、死生観などについての哲学的考察まで幅広く発信。『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書)で第9回大佛次郎論壇賞を受賞した。

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