メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

高知工科大学という選択

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 2012年11月26日から28日まで、高知工科大学 (Kochi University of Technology、以下KUTと略す)に滞在した。KUTは極めてユニークな大学であるが、一般にはほとんど知られていないであろう。そこでごく簡単な紹介から始めたい。
高知工科大学キャンパスの銀杏=全卓樹・高知工科大学教授撮影

 大学に工学部が存在しない高知県の産業活性化をめざし、高知県のサポートのもとに1997年に開学した「公設民営」の私立大学がKUTである。山の中に突如として現れる美しいキャンパス、斬新なデザインの建物、学生との心理的距離をなくすべくすべての教員室の通路側は全面ガラス張り、広くとられた廊下(というよりホール)には大きな机と椅子が配置され、学生・教員の誰でも自由に使って勉強、読書、議論ができる。このように学生と研究者の使い勝手を優先した設計は大学では珍しい(私の研究室のある建物が今から15年以上前にできる際には、研究者からの実用的な要求のほとんどが受け入れられず使い勝手の悪いものとなっている)。当初から設立に関わられた方々の理念と見識が明らかに反映されている。

 このようなハード面のみならず、運営上もトップダウン的裁量がかなり認められている。優秀な教員を採用し維持するための年俸制・教育研究評価制を採用しているのはその一例である。

 といってもこの少子化・理科離れのご時世、しかも高知県香美市土佐山田町という名前からも予想される正真正銘の田舎にあっては、大学経営上の幾多の困難は避け得ない。実際、2006年には定員割れの事態に追い込まれた。しかし驚くべき事にその後の高知県との協議を経て、2009年には私立大学を公立大学に移行するという「前人未到の偉業」が成し遂げられた。おそるべし高知県。

・・・ログインして読む
(残り:約1727文字/本文:約2452文字)