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iPS臨床応用騒動のその後と、森口氏のその後

久保田裕

 昨年の日本科学界最大の話題といえば間違いなく、iPS細胞を発明した京大の山中伸弥教授のノーベル賞受賞だろう。もっとも、ケチの付けようのないその業績から、ノーベル賞を遠からず受賞することは間違いないと噂され、いわば当然の受賞ともいえた。

 むしろ世間があっと驚かされたのは、山中教授の受賞が決まったその直後に、読売新聞などが報じた、世界初のiPS細胞の臨床応用が行われた、とするニュースのほうだったろう。基礎研究として3日前にノーベル賞受賞が決まったばかりなのに、もう患者に移植をされていたというのだから、驚くのも当然だった。

 だがこのニュースがその後、どういう経過をたどったのかは、みなさんよくご存じの通りだ。

 米国で開かれた学会で発表をするはずだった、東大特任研究員の森口尚史氏の移植手術の概要のポスターは取り消され、移植手術をしたはずのハーバード大は関与を否定、6例移植をしたと主張していた森口氏自身も、実は一例だけだったと発言を翻す事態になり、「幻の臨床応用」となってしまった。

 この件では、朝日新聞は報道を控えたため、誤報することは免れた。朝日がなぜ誤報せずに済んだのかというと、前々から森口氏との間に接触があったためだ。山中教授のノーベル賞受賞の前から、森口氏から「iPS細胞の臨床応用をした」という話を朝日新聞も聞いてはいた。ただ、言っていることがどうも曖昧で、そのまま鵜呑みにはし難く、慎重に対処しようということにしていたのだ。

 しかし、誤報しなかったから朝日がえらく、読売はダメなどと単純にいえる問題ではない。ある意味、朝日は今回、たまたま誤報を免れただけではないかとも思っている。

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