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日中の環境協力、緊張含みの今こそ

米本昌平 東京大学教養学部客員教授(科学史・科学論)

 この冬、中国は歴史的な大気汚染に見舞われており、その汚染物質の一部は日本に飛来している。そのため改めて、東アジアでも欧州を中心とする長距離越境大気汚染条約(LRTAP条約)のようなものを検討すべきだという声があがってくるはずである。だが、この種の環境外交に関する日本での議論は上滑りしたものが多く、また、これを支える研究は恐ろしいほど手薄である。日本のアカデミズムは本能的に、政治や外交の課題から逃げ腰なのだ。

条約の芽は日本にもあった
 欧州の長距離越境大気汚染条約の雛形に当たるのが「東アジア酸性雨モニタリング・ネットワーク(EANET)」という、酸性雨の原因物質の観測に関する国際共同観測網である。1992年の地球サミットの後、日本の環境庁(当時)のイニシアチブで専門家の情報交換の場として始まったものだが、環境省をはじめとする日本の稚拙な外交感覚などが災いし、その後の展開は、2010年の政府間会合でこの組織を強化する文書を採択した程度で、環境外交の国際組織という点からは、ほど遠い状態にある。

 その最大の理由は、当初から中国が責任追及の場となることを恐れて、中心プレイヤーになることを避けてきたからである。それは短期的な中国の判断としてはやむをえないものあり、日本はこの点を十分踏まえた上で、EANETの国際政治上の意味を一歩一歩強化する方策をとるべきであった。

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