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iPS細胞を用いた臨床試験と「人体実験」を分けるもの

佐藤匠徳 生命科学者、ERATO佐藤ライブ予測制御プロジェクト研究総括

目の難病である加齢黄斑変性に対して、iPS細胞を用いた臨床試験が始まる見込みになった。神戸市の先端医療センターの倫理委員会が、「安全性についての結果を臨床委員会に報告する」という条件付きで、同センターでの臨床試験を承認したのである。国が承認すれば、世界で初めてのiPS細胞を用いての臨床試験がiPS細胞の発明された日本で始まる。この臨床試験は安全性の確認が主な目的になっている。

 そう聞くと、「安全性もまだ100%わからないのに、ヒトに直接つかって、安全性を確認しようとしているのか。これは、人体実験ではないか」という素朴な疑問が出てくるかもしれない。そこで、再生医療を含めた生命科学の研究をしている立場から、人体実験と臨床試験の違いは何なのかについて、筆者の意見を述べる。

 まず、ヒトで試す前に、動物で安全性を確認すればよいではないか、という意見があると思われる。もちろん、そうである。iPS細胞の場合も、数えきれないほどの動物実験で安全性、また、有効性を確認した。すべての薬、治療法において、培養細胞、動物をつかって安全性、有効性をまずは確認する。しかし、残念なことに、多くの薬が、培養細胞や動物では、有効であり、安全性も確認されたにも関わらず、ヒトではまったく効かない、あるいは毒性が出てしまう。

 先日、国際的に評価の高い、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences,)に、

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