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食品による内部被曝はほとんどないーホールボディカウンター検査が明らかにした福島の実態

内村直之 科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授

ホールボディカウンター(WBC)は、人の体に含まれる放射性物質の量をまるごと測る装置である。2011年3月の福島第一原発事故以後、あちこちで使われるようになったが、同年秋までは使い方などが混乱した。先日、このWBC検査の結果に関して嬉しいニュースが出た。福島県内で暮らしている人々の放射性物質による内部被曝は十分に低く抑えられているとわかり、その根拠を英文のオンライン専門誌で発表したというのである。取り組んだのは、東京大学理学部の早野龍五教授、東京大学医科学研究所に所属しながら南相馬市立総合病院にも通っている坪倉正治医師、ひらた中央病院(福島県平田村)の医師ら、現場の人たちである

 国連の放射線に関する委員会であるUNSCEARのチェルノブイリ事故の放射能問題に関する報告書(1988年)によると、地表に降り積もったセシウム137の量と、そこに住む人たちの食品由来の内部被曝線量はほぼ比例し、1平方メートルあたり1キロベクレル(kBq)の汚染に対して内部被曝は年間20マイクロシーベルトになるという。文部科学省の「放射性物質の分布状況等調査データベース」などによれば、福島県内では60 kBq/m2〜300 kBq/m2ほどの濃度のセシウム137が地表で検出されるから、そのまま当てはめれば、1.2mSv/年〜6mSv/年と一般人向け被曝の基準とされる1mSv/年を簡単に超えてしまう。本当にそういう状況なのだろうか? 内部被曝の状況は、福島県内の人々のもっとも気になることの一つであった。

 まず、食べ物の検査結果を見てみよう。たとえば、福島県庁食堂では昨年10月から今年3月まで、1週単位で定食や弁当のまるごと放射性物質検査をしてきた。使われている食材は、通常の家庭とほぼ同様に県内産もあれば県外産もある。ゲルマニウム半導体検出器を使っているので、検出限界は約1Bq/kgと相当敏感な検査なのだが、この3月末まで1度も限界以上の放射性物質は見つからなかった。また、福島県が行なっている県産米の検査でも基準値(100Bq/kg)を超すようなものは0.0007%しかないということもわかってきた。福島県内の給食検査でも問題は見つかっていない。

 では、福島県民の内部被曝の実態はどうなのか?

 福島県が発表したホールボディカウンター検査データがある。延べ12万人分という膨大なデータだが、「1mSV未満、1〜2mSV、2〜3mSV、3mSV以上」という大まかな区分けでしか出ていない。一人あたり放射性物質を何ベクレル持っているのかについては全くわからないのだ。これではほとんど実態はわからない。また、このような検査に積極的に参加する人はもともと安全に相当気をつけているはずで、全体の正確な状況を表しているかどうかはわからないという「サンプリングバイアス」の問題も指摘されていた。

 そこで、福島県・平田村にあるひらた中央病院でこれまでWBCで延べ3万2千人ほどの人々の内部被曝状況を調べた結果が注目された。特に、その中に含まれた福島県三春町の「小・中学生ほぼ全員のデータ」が重要であった。

 三春町は巨大なシダレザクラ「三春滝桜」で知られるが、 ・・・続きを読む
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筆者

内村直之

内村直之(うちむら・なおゆき) 科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授

科学ジャーナリスト、北海道大学客員教授。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程満期退学。1981年、朝日新聞入社。福井、浦和支局を経て、科学部、西部本社社会部、科学朝日、朝日パソコン、メディカル朝日などで科学記者、編集者として勤務し、2012年4月からフリーランス。興味は、基礎科学全般、特に進化生物学、人類進化、分子生物学、素粒子物理、物性物理、数学などの最先端と科学研究発展の歴史に興味を持つ。著書に『われら以外の人類』(朝日選書)など。【2015年10月WEBRONZA退任】

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