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ブラピのカミングアウトで注目される「相貌失認」の真実

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 アンジェリーナ・ジョリーががん予防のために乳房切除したことを公表し、波紋を呼んだ(先月)。パートナーのブラッド・ピットと共にその勇気を称賛する声も多い。しかし日本では「金持ちの身勝手」「親からもらった体、病気にもなっていないのに」という抵抗感もあったようだ。

 また「87%の確率で乳がんになる」と予測した遺伝子検査に注目が集まり、検査ツール会社の株価が急騰。遺伝子そのものの特許の有効性をめぐっては法廷で係争中 だったこともあり、ハリウッドスターぐるみのビジネス戦略の疑いも拭いきれない(「遺伝子は特許対象とならない」という米連邦最高裁判決が出たのは、今月13日)。

 一方その陰に隠れてしまったが、ブラピの方も雑誌インタビューで「ヒトの顔が覚えられない。そういう病気かも」とカミングアウトした。「何それ」「そんな病気あったの?」「そう言えば自分も」などとちらりと思って、そのまま通り過ぎてしまった人が多いかもしれないが、 今回は、こちらに焦点を当ててみよう。

 「失顔症」と迷訳したメディアもあったが、医学的には「相貌(そうぼう)失認 (prosopagnosia)」が正しい。対象物を認知できない「失認症」の一種だが、特に顔を認知できない障害を指す。男女や表情が識別できず、重篤になると親しい顔も識別できなくなって、社会生活に支障をきたす。しかし目、鼻などのパーツや輪郭を識別することはできるので、顔を全体として見る統合機能の障害と考えられている。

 ヒトの脳の側頭、後頭には顔の認知・識別に関わる部位がいくつか知られている。当初はこれらの部位の損傷が病因だと考えられた。しかし

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