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「植物版トキ」野生絶滅の過去を忘れるな

米山正寛 森林文化協会事務局長補佐

 「植物版トキ」とも呼ばれているコシガヤホシクサをご存じだろうか。本来の自生地から姿を消し、人の管理下でのみ生存する「野生絶滅」種を、自然の中へ戻す試みは鳥類のトキでよく知られている。同じように植物でも、コシガヤホシクサを対象とした野生復帰プロジェクトが国立科学博物館を中心に2008年から動き出し、昨年には野生生まれの世代が開花・結実して、自然状態での世代交代を再現することに成功した。今年も春に発芽した個体が、順調な生育を続けている。プロジェクトを進めた環境省は「植物での野生復帰は初めて。地域で守る先進的な取り組みとして期待している」とエールを贈る。

植物版トキ コシガヤホシクサ 絶滅危惧拡大秋に花茎を伸ばしたコシガヤホシクサ=写真はいずれも米山正寛撮影
 日本の固有種であるコシガヤホシクサが、国内(すなわち世界で)唯一の自生地だった茨城県下妻市で姿を消したのは1994年のことだ。当時を知る人たちに話を聞くと、いわば衆人環視の中で、みすみす絶滅させてしまったという実態があったことがわかる。わずか20年前に、なぜこの植物の生息環境を守れなかったのだろうか。野生復帰に取り組むことは意味があるが、その一方で野生絶滅に追いやった過程をきちんと検証しておくこともまた重要だと考える。これまでの取材を通して知りえたことを少しまとめてみた。

 コシガヤホシクサは水辺で育つ一年生植物。水面下でも成長するが、秋の開花期に花茎を伸ばし、水の外で花を咲かせて種子をつけるという生活を送る。コシガヤという名でわかるように、埼玉県越谷市の元荒川で1938年に初めて見つかった。だが、そこからはやがて姿を消し、75年に下妻市にある農業用ため池の砂沼(さぬま)で再発見された。春から夏にかけて、このため池には農業用水がたたえられ、自生地は水没してしまうが、水に強いコシガヤホシクサはほかの植物との競争を避けて育つことができる。そして稲作が終わる秋には、もう水が不要となって水位が下げられるため、開花・結実が可能だった。人間による農業活動のサイクルが、コシガヤホシクサという植物の生活史とうまく重なり合って、この唯一の自生地が守られていた。 ・・・続きを読む
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筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 森林文化協会事務局長補佐

公益財団法人・森林文化協会事務局長補佐(学術、出版)兼「グリーン・パワー」編集長。朝日新聞の科学記者を経て現職。とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せ、取材活動を重ねてきた。森林文化協会は、「山と木と人の共生」を基本理念として1978年に設立された朝日新聞創刊100周年記念の財団。
森林文化協会公式サイト

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