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「論理と倫理」なき原発再稼働と原発輸出

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 福島の事故から2年以上がたち、原発再稼働と原発輸出への動きが本格化している。

 「福島第1原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら(原発を)活用するしかない」(高市早苗自民党政調会長、6月17日、後に発言撤回)。
「日本の最高水準の(原発)技術、過酷な事故を経験したことによる安全性に期待が寄せられている」(安倍首相、中東訪問の記者会見、5月3日)。

 はたして、これらの発言に、原発再稼働と原発輸出を進める「論理と倫理」を見出すことはできるだろうか?福島の事故に関する政府と国会の事故調査委員会報告が出されて、本来ならば、そこで指摘された事故の背景と原因に則して、これまでの原発の安全基準と規制のあり方の抜本的改革がなされて、はじめて原発再稼働の検討と審査が始められはずである。これが「論理」(スジ)というものである。福島の事故の深刻さは、全国に立地した他の50基の原発が同じ基準で運転されてきたために、同様のリスクに晒されているという、日本の原発の危機的状況であり、首都圏3000万人の避難も検討せざるを得ない危機であった。

 福島の事故後、たしかに、原子力規制委員会が新設されて、新たな新規制(安全)基準が作られた。以前は自主的取り組みにまかされてきた過酷事故対策、地震・津波対策などは強化されたことは間違いないが、詳細な基準の決まっていないものが多く、原子力市民委員会の緊急提言が指摘するように(6月19日)、様々な課題が残されている。原子炉立地審査指針との整合性の検討、安全評価審査指針の確立、重要度分類指針の見直しは全く手つかず、耐震設計審査指針、基準地震動の見直しもない。

 アメリカの原子力規制委員会(NRC)の規制やスタッフ数(4000人100基)と比べた場合、新規制に対応した検査手順書の準備や要員訓練など、少なくとも数年間はかかると見られている。しかし今回は、新規制基準を満たしていなくとも部分的コンプライアンスで、防潮堤やベント・フィルター、活断層調査などは完了していなくとも暫定的な稼働を認めるなど、電力会社に大変甘い規制といわざるを得ない。

 とくに、アメリカのNRCが頻繁に行っている地域住民からの意見を聞く公聴会なども制度化されず、新基準策定にあたり、府県の意見を聞かず、福島の事故で問題となった、原発周辺の避難計画などは、原子力規制委員会から原子力災害対策指針の見直しが行われたものの、福島の事故で起きた状況を繰り返さない十分な防災対策になっておらず(緊急時防災措置準備区域は30km圏など)、またその具体化は各道府県と立地周辺自治体にまかされたままである。

 日本列島周辺の地震関連活動の活発化が懸念されるなかで、こうした対策が不十分なままに、全国の原発が再稼働することのリスクは非常に深刻である。例えば、私の住む北海道の原発が3基立地する北海道電力泊原発は、地震津波が起きた場合の重要免震棟もなく、山側への避難路も不十分なままである。いまだに16万人近くが避難生活を強いられ、故郷が奪われ、家族がばらばらにならざるをえない状況におかれ、震災関連死が1400人に達した福島県の現実を見るとき、現政権支持の人であっても、「原発の再稼働」に不安を感じて反対の意見をもつ人々が多いのは当然なのである。

 昨年5月5日に、日本は一旦原発ゼロの状態になった。その後、関西電力大飯第3号、第4号が再稼働したものの、50基のうち48基は動いていない。それでも日本の電力は不足していないのである。その理由は10%に達する節電とピークカットへの国民の協力があり、もともと各電力会社がピーク需要用に余剰発電設備をもっていたので、原発が停止しても電力を供給できたのである。ただし、原発停止によってCO2の発生量が増加し、火力発電の燃料代が追加され、かつ停止中の原発の減価償却と維持管理費がかかる。

 したがって、電力会社の値上げ申請があいついでいる。とくに原発依存度の高い、関西電力、九州電力、北海道電力などは、値上げとともに再稼働を急ぎ、新規制基準への申請を行う予定である。さらに福島の事故を起こした当事者の東京電力までもが柏崎刈羽原発の再稼働を申請しようとしている。北海道電力などは、3基の原発が停止したままで火力発電の運転が続くと、来年3月期決算には債務超過に陥るといわれている。

 ここに、原発停止が電力会社の経営危機に直結する、原発依存度の高い電力会社の経営問題がある。原発は、一度事故が起これば、「不安定電源」であることが明らかとなっている。再生可能エネルギーや電源多様化、省エネへの投資を怠り、石炭・石油火力発電と原発に頼ってきた電力会社の経営の失敗、経営論理の破たんである。しかし当事者の電力会社は、原発さえ再稼働すれば、問題は全て解決すると考え、9電力すべてが原発再稼働を経営方針に掲げている。これは、電力会社の利益と引き換えに国民をリスクに晒す賭けといえる。

 もう1つの重大な動きは、政府の経済成長戦略、インフラ輸出の柱として、原発輸出計画が進められていることである。国内メーカーの東芝、日立、三菱などは、福島の事故後、原子力への信頼が崩れて、市場を失う恐れが出てきたために、原発輸出への働きかけを急速に強めてきた。アメリカでは、もはや原発の新設を望めず、GE,WHなどのメーカーは、原発生産から撤退し、そのあとを日本のメーカーが肩代わりしている。

 しかし、例えば、サザンカリフォルニアエジソン社はサンオノフレ原発第2号機、3号機の廃棄を決定し、事故原因の装置を製造した三菱重工への損害賠償を請求するという、こうしたリスクを抱えているのである。

 日本にとっては、新規となるベトナム、トルコ、アラブ首長国連邦、インド、チェコ、フィンランド、ポーランド、ブラジルなどへの原発輸出計画が、経済成長戦略の柱として進められようとしている。しかし、そのリスクは非常に高いと言わざるをえない。

 事故の場合の損害賠償責任や、使用済み核燃料の処理、核拡散問題、政治変動のリスクなど、数えあげればきりがない。「過酷事故を経験したことによる安全性」(安倍首相)は、まだ証明されておらず、過酷事故を防ぐことができなかった日本の原子力技術を、他の国が輸出するからと言って、競争上こちらも輸出するというのは、「論理」も通らず、「倫理」上も許されないはずである。

 ベトナムなどは、北部の石炭生産地帯で、原子力よりも日本の「クリーン・コール」技術を何よりも必要として ・・・続きを読む
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筆者

吉田文和

吉田文和(よしだ・ふみかず) 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

1950年生まれ、兵庫県出身、京都大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。北海道大学大学院経済学研究科教授を経て2015年から現職。北大名誉教授。専門は、環境経済学、産業技術論、主著『ハイテク汚染』岩波新書、『環境経済学講義』岩波書店、最近は低炭素経済と再生可能エネルギーの普及に関心を持つ。札幌郊外の野幌原始林の近くに住み、自然観察と散歩を趣味とする。

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