2013年08月08日
論文不正のような極端なケースでなくても、信じられてきた知見が「覆され、また積み上げられる」というところに科学の営みの本質がある。その上論文には正しいものと不正なものの2種類があるのではなく、中間のグレーゾーンが案外広い。その「灰色に近いクロ」の最新例として、ハーバード大元教授マーク・ハウザーの事例がある、と書いた。
実例がどうしても筆者の専門に近い分野に偏ってしまうのだが、2年前まで同大心理学部の教授だったハウザーは進化生物学者で、動物の知覚認知研究の大家だった。言語の進化、倫理判断の本性などについて多大な貢献をした。有名な言語学者N.チョムスキーとの共同研究や、ベストセラー作家としてマスメディアに登場するなど、活躍は多岐にわたった。
ところがそのハウザーにわずか3年ほど前、データ歪曲、論文不正の疑惑が浮上した。ラボで働いていた学生の訴えにより、ハーバード大学当局と米国研究公正局(US Office of Research Integrity)が調査を開始。2011年ハーバード大心理学部は、複数の不正行為を理由にハウザーを教務から排除し、その直後に彼は辞任した。
この件は当事者が有名教授だっただけでなく、多数の教え子がすでに学位取得し他大学で教授職にあるなど、影響が大きかった。その上当局が(米国では通例だが)秘密主義を採ったため、調査の詳細が明かされなかった。
科学上の不正行為といっても幅がある。一方には、データ管理が単にずさんだったような「軽い」場合がある。他方の極には、データを完全に捏造して研究費を搾取するような、悪意に満ちた詐欺行為がある。ハウザーの場合は、
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