2013年10月22日
為末大さんは、あらためて言うまでもなく、日本陸上界のスーパーヒーローだ。日本のスプリント(短距離)選手としてはじめて世界陸上2大会でメダルを獲得し、オリンピックにも3大会連続で出場した。昨年引退されてからはスポーツ・コメンテーター、指導者として活躍されている。その彼と対話する機会を得て、鮮烈な印象を受けた(於京都大学こころの未来研究センター、10月12日)。
為末さんが提案してくれたテーマは「心を奪われること:遊び、夢中、ゾーン」。彼の長い選手生活の中で、最高と思えるレースが3回ある。それらのレースでは、自分の体を阻むものが何もない超集中状態に入った。時間感覚が変わり、「ハードルを自分が跳ぼうとしているのか、ハードルが自分を跳ばせたのかはっきりしない」不思議な体験をしたという。
選手の間では、こういうのを「ゾーンに入った」と表現するそうだ。心理学でいう「フロー」の概念に近い。
「フロー」というのは、スポーツ、音楽、ゲームなどに「没入した」状態を指す。カリフォルニア州クレアモント大学院大学で、ポジティヴ心理学(幸福感や創造性の心理学)を推進するミハイ・チクセントミハイ(Mihaly Csikszentmihalyi)が提唱した 。「完全に熱中したときに経験される、統合的な(holistic) 感覚」のことだ。チクセントミハイは、トップレベルのスポーツ選手、音楽家、チェスプレーヤー、外科医、ダンサーなどをインタビューしてその特性を記述した。ただ一般人でも、(多少薄まってはいても)そういう主観経験の存在は確かめられた。
高度の技能と挑戦(つまりプレーヤーにとってぎりぎりの困難度であること)、注意の極度の集中、臨場感(没入感)、快、などがその共通の特徴だ。
関連する神経科学的研究はあるが、「フロー」そのものの神経基盤はわかっていない。だから
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