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「三国志」の生物学 ~曹操のY染色体とSNPの話(上)~

武村政春 東京理科大学准教授(生物教育学・分子生物学)

曹操といえば、古代中国「三国志」ファンなら誰でも知っている超有名人だ。三国志ファンでなくても、この名を一度聞いたら忘れまい。
 そうそう。
 もちろんこれは日本語での発音である。英語では「Cao Cao」、中国語では「ツァオ ツァオ」だ。こんな名前の人物はそうそうはいない。筆者が中学生の頃、NHKで『人形劇三国志』という面白い番組に夢中になっていた頃を思い出した。当時87歳になろうとする祖母が、三国志の人物中、唯一名前を覚えたのがこの「曹操」だった。

 曹操は、三国のうち最も強大な魏を打ち立てた英雄である。後漢の丞相、魏王として君臨するも、最後まで皇帝にはならなかったが、息子の曹丕が魏の初代皇帝になった後、「武帝」という称号を贈られた。

 羅貫中の『三国志演義』によって蜀の劉備、諸葛亮(孔明)の敵役になってしまったが、その三国志演義を原作とする『人形劇三国志』の中でも、曹操の人気は絶大なものだったという。だってかっこよかったもんね。今では野草を食べるタレントとしてバラエティーなどにもよく出ている俳優の岡本信人氏が曹操の声を担当していたことなど、今の若い人は知るまいテ。

 危ない危ない。『人形劇三国志』のことを書き始めたら、WEBRONZAに何個記事が書けることやら。そろそろ本題に入ろう。

 2009年、三国志ファンの度肝を抜くような発見があったことを覚えておられるだろうか。中国の河南省で、曹操の墓とおぼしきものと、何とその内部から墓の主とおぼしき人骨が発見されたのである。この人骨が曹操本人のものかどうか話題になったのだったが、その可能性は高いものの、真偽のほどはまだ明らかにされていなかった。ネットを見ると、「ねつ造」を主張する人たちもいるらしい。どちらが本当かはもちろんまだわからない。

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