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災害救援ロボコンで世界第一位!東大発ロボット・ベンチャーSCHAFTの快進撃

鎌田 富久

 スポーツでもビジネスでも研究でも、世界を相手に一番になるのは大変なことだ。その夢に向かって、周囲が不可能と言おうが、寝る間も惜しんで努力し、仲間を集め、自分たちの力を信じて突き進む。そして、世界一になる。そんなスカッとする場面に立ち会えた。

世界の強豪を相手にSCHAFTが圧勝

優勝インタビューされるSCHAFTの中西雄飛CEO

 米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が主催する災害救援ロボットのコンテストDRC(DARPA Robotics Challenge)が12/20-21に米国マイアミで開催された。

 来年末の本大会の事前トライアル的な位置づけだが、現時点での世界のロボット技術の実用レベルを競い合う。米航空宇宙局(NASA)やマサチューセッツ工科大学(MIT)、カーネギーメロン大学(CMU)など世界の名だたる研究機関から16チームが参加した。

 SCHAFTは、東京大学のロボット研究者らが立ち上げたベンチャー企業である。そこが開発したヒューマノイドロボットが8つの種目のうち6種目で満点をとり、2位に大差をつけて1位となった(朝日新聞デジタル既報)。

1年半前を振り返ると感慨深い

 SCHAFT社の創業者3人(中西雄飛、浦田順一、鈴木稔人)と初めて会ったのは、2012年5月末頃のことだ。筆者がACCESSを退任して、自分が東大の学生時代に起業したように、学生ベンチャーをいっしょに立ち上げたいとTomyKの活動を開始した矢先のことだった。

 「東日本大震災で、自分たちロボット研究者が役に立てなくて悔しかった。どんなに大変でもロボットを実用化して人々の役に立てるようにしないと意味がない。だから、大学の助教を辞めて会社を立ち上げた」と切り出す中西と浦田。ロボットには以前から興味のあった私は「おー、面白いね。で、技術では世界で勝てるの?」と聞いてみた。「浦田の技術は最高です。僕たちは絶対に世界で戦えます」と断言する中西。私は、エンジェル投資を引き受けて、Virtual CFOとして参画した加藤崇氏とともに、取締役として彼らの夢の実現をサポートすることとなった。

優勝を喜ぶSCHAFTメンバー

 ロボット実用化のための1つのステップとして考えたのがDARPAのロボティクスチャレンジへの挑戦だ。まずは知名度をあげないと、資金も人材も集められない。ハードウェアとソフトウェアの両方を競い合う、最も難しい部門(Track-A)に応募し、世界7チームの1つに選出された。とにかくこのチャンスを活かしたい。

 SCHAFTのメンバーは、本当にハードワーカーだ。ロボットと寝食を共にして家に帰らない。必要とあれば、何でも自分たちで作ってしまい、様々な困難を1つ1つクリアし、準備を進めて行った。

SCHAFTの強みは実用化への強いこだわり

 今回のロボット競技は、8つの種目で構成され、いずれも災害時を想定して設定された。事前に種目のガイドライン(課題クリアの基準に応じて1点〜3点で、途中やり直しなしで完遂した場合には、さらにボーナス1点がもらえる。各種目の制限時間は30分)が提示され、参加チームは課題解決の戦略を立てて競技にのぞんだ。

 会場は、マイアミ郊外の自動車レース場を使い、実際の災害現場を想定した設備が作られ、ロボットを持ち込めるようになっている。ロボットの操縦は、ロボットが見えない場所(ピット)から遠隔制御する。ロボットからのカメラ画像やセンサーなどの情報だけが頼りだ。イベントは一般に公開され、観客はスタンドから見ることができる。かなり大掛かりに準備されていた。

種目1 自動車
種目2 地面
種目3 はしご

種目1 Vehicle=車 
 自動車を運転する。今回は、ロボットが車に乗り込んでハンドルを握った状態からスタートする。それでも、ハンドルを切って、くねった道をうまく走るのは、アクセルとハンドル操作の微妙なバランスが必要だ。SCHAFTロボットが乗った車は見事75mを完走した。さらに、ロボットが車から降りると満点だが、さすがにそこまでできたチームはなかった。

種目2 Terrain=地面 
 ブロックが散乱した路地を歩く。平らでない道をバランスを取って歩行する。ブロックが斜めに積まれている箇所もあり、足場をうまく選ぶ必要がある。SCHAFTは、最速の約16分で軽々と渡りきった。ボストンダイナミック社のAltasで、奇麗に完遂したチームもあった。

種目3 Ladder=はしご 
 はしごを登る。高さ2.4mの7段のはしごを登る。手すりなしと手すりありのどちらかを選択できる。SCHAFTは、手すりなしを選んで、6分少々でこなした。はしごを降りるのも練習していたので、たぶんやればできたのではないか。

種目4 がれき
種目5 ドア
種目6 壁

種目4 Debris=がれき
 がれきなどの障害物をどけて、部屋の中に入る。角材などが散乱された状態で、これらを1つ1つ取り除き、道をあけて通る。制限時間内に作業をこなす能力が問われる。

種目5 Door =ドア
 3種類のドアを開けて、部屋の中に入る。1つ目が開き戸、2つ目が引き戸、3つ目が自動で閉じる引き戸。最も難易度が高い種目に見えた。特に、引き戸は、ドアを引いた際に、自分が邪魔にならないように工夫する必要がある。SCHAFTは、最後のドアのクリアをもう一歩のところで逃したが、他のチームも大変苦労していた。

種目6 Wall=壁
 ドリルを使い壁に穴をあける。置いてあるドリルをつかみ、壁の板の指定された位置をドリルでくり抜く作業を行う。これも、斜めに切り抜くところは、制御が難しそうだ。また、最後にくり抜いた部分を軽く押して開けるのも微妙なタッチという感じだ。

種目7 バルブ
種目8 ホース

種目7 Valve=バルブ
 3種類のバルブを回す。レバー型のものと大きさの違うハンドル型のバルブが用意された。どういう手段でバルブを回転させるかは自由だが、ある程度のパワーが要求される。

種目8 Hose=ホース
 ホースを設置場所から取り出し、栓につなぐ作業をこなす。栓をつなぐところは、うまく口を合わせて回して差し込む繊細な作業が要求される。SCHAFTは、栓につなぐのを何度もトライして、最後30秒でギリギリ完了した(会場から歓声が沸き起こる)。

 SCHAFTチームは、端から見ていても、セットアップの段取りも良く、役割分担ができていて、チームワークの良さが際立っていた。緊張の中でも、しっかりと結果を出す力強さがあった。

 世界のロボット技術の現状は、まだまだ実際の過酷な災害現場で即使えるようなレベルではないが、可能性は示せたのではないか。このようなコンテストを通じて、研究者や技術者が競い合い、お互い良い点を吸収して改良して行けば、技術革新は加速する。DARPAのコンテスト方式は、前回の自動走行の例でも 、産業界にインパクトを与える良い機会を作ってくれていると感じる。

トップレベルの研究者のベンチャーマインドを刺激

 20年前は、日本でベンチャーを立ち上げる学生や若手は極めて少なかった。特に、理系の学生には、起業の知識や情報がないので、まったく視野に入らない別世界の話だった。その後、数は増えてきたものの、トップレベルの研究者がベンチャーを起こすのは稀である。しかし、シリコンバレーはまったく逆だ。トップレベルの学生がまず起業を考える。この差を埋めない限り、世界では勝てない。

 日本の中にも様々な分野で優秀な研究者は多い。SCHAFTは、日本のトップレベルの研究者がベンチャーでも世界で戦えることを証明してくれた。東京大学では、産学連携本部が精力的に活動して、今年は工学部の授業で「アントレプレナーシップ」という講義もできて、筆者も協力させてもらっている。うれしいことに、起業を考える若者が増えている。ベンチャーは、やりたいことを実現するための1つの手段だ。最近では、クラウドファンディングという手段を活用して、最初の製品開発の資金を集めることもできる。

 SCHAFTの今後については、すでに12月にGoogleによる買収の発表があったが、日本のテクノロジー・ベンチャーがGoogleに買収されるというのは、異例のことだ。さらに大きな舞台で、技術開発を進めて行くことになるだろう。失敗を恐れず立ち上がると、こんな成功ストーリーもあり得る。

 日本の大手企業も、提携や買収などによるベンチャーの取り込みを研究開発、新規事業創出の1つの手段として活用することを期待したい。日本全体として、新規事業・イノベーションの生態系が回ると、ベンチャー起業も加速する。

        ◇

鎌田 富久(かまだ とみひさ)
株式会社ACCESS共同創業者(前CEO)。東京大学理学部在学中の1984年にACCESSを設立し、2001年に株式公開、モバイルインターネットの技術革新を牽引した。2011年に退任し、若手ベンチャーの起業を支援するTomyK を設立。SCHAFTへ出資し、取締役として支援した。現在、Mynd、Pluto、H2L、Genomedia など数社のベンチャー企業を立ち上げ中。