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的外れのイノベーション論を憂える

まつもと ゆきひろ ソフトウェア技術者、Ruby設計者

 「イノベーション」といえば、「技術革新」という訳語が当てられることが多く、どちらかというと今までにない新しい技術を導入することとイメージされますが、実はそのイメージは幻想に過ぎないのではないかと感じるようになりました。

 筆者は1993年からRubyという名前のプログラミング言語を開発しています。現在Rubyは世界中で広まっており、主にインターネットウェブサイトの構築に使われています。皆さんのお使いのウェブサイトの中にもRubyを使って開発されたものがあるかもしれません。たとえば、有名なレシピサイトのクックパッドはRubyを用いて構築されています。

 長らく日本はソフトウェアには弱い、特に基盤となるソフトウェアは海外産ばかりだと言われてきました。確かにマイクロソフトにアップルにグーグルと、私たちが頻繁に用いるソフトウェアは海外で開発されたものが目立ちます。そんな中にあってRubyは日本人によって設計され、世界に広まった稀有なソフトウェアとしても注目されています。多くの方がこれは「イノベーション」だと褒めてくださいます。最初のうちはこのように褒められるのはありがたいようなくすぐったいような気持ちだったのですが、

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