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心に侵入する権力~特定秘密保護法案とその行く末

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 昨年末は「特定秘密保護法案」が世論を騒がせた。衆院に続いて参院でも(わずか20時間余の審議で)採決を強行(12月5日)。その強引な手続きに、抗議の声がわき上がったのは当然だ。しかし内閣官房に準備室が立ち上がり(12月13日)、外交・安全保障の基本方針となる国家安全保障戦略が閣議決定される(12月17日)など、施行の準備が着々と進められている。

 筆者もまた、この経緯と行く末に不安を抱くひとりだ。ただ同時に、この間の議論の方向にも不満を感じる。将来にかかわる重大案件だから、忘れ去る訳にいかない。問題を整理してみた。

 まず第一に、この法案の「必要性」を掘り下げた論議が、あまりに少ない。

 世論の大勢は「秘密保護の必要性は皆がある程度認めているが、決め方が強引すぎる」というものだった。この「必要性」の中身が、素人には判然としない。政府側の説明や賛成派の議論でも「国家の安全保障および、同盟国との情報共有の必要から」という一言で済ませている。「事柄の性質上」詳しくは述べられないのかも知れないが、これでは国民を説得できない。必要性の程度と範囲も曖昧だ。

 「必要性」とは、実質的にどういう時に何をする必要性なのか。「安全保障上の理由」とは具体的には何か。この法律が無いとどういう不利益が生じ、またどうして今火急に必要なのか。十分な説明がない。

 米国家安全保障局の個人情報収集を巡るスノーデン事件や、情報のデジタル化と結びつけた議論もある。また確かに日本でも、外国スパイが公務員に接触したケースなどがまれに報道される。だが、たとえば電力会社の社員が、仕事上知り得た原発に関する情報を誰かに話したとする。このとき、法に触れる/触れないの限界線は、誰がどのような基準で引くのか。それを誰が監視するのか。暫定的な答えは出されても、信用できない。

 結局のところこれは、

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