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[4]103年目の秘密保護法

星川 淳 作家・翻訳家、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト代表理事

 「行先を 海とさだめし しずくかな」

 いまから103年前の1911年1月末、大逆事件に連座して幸徳秋水とともに刑死した12名の一人、成石平四郎の辞世の句だと、住井すゑの長編小説『橋のない川』終幕(第7巻末尾)近くに紹介されている。公正・平等な社会を希求したばかりに、天皇の逆賊という濡れ衣を着せられ、28歳の若さで、まだ初々しい妻子を残しながら国家によって絞殺される無念はどれほど深かったか――それでもわが身、わが生命を、遠く海をめざす一滴の水と覚悟し、過去・現在・未来の不可視の同志たちに遺志を託して、自由への大河に消えた。

 「科学・環境」分野の連載なのに大逆事件を引くのは、言うまでもなく昨年暮れに国会を強行突破された特定秘密保護法案を念頭に置いてのことだ。私が40年来関わってきたのは環境の“科学”より“運動”が主だが、政府や企業が隠したがる都合の悪い情報をどう引き出すかで勝負がつくことは少なくない。つまり、自然や環境が守られるためには情報の開示が必須であり、特定秘密保護法の制定はその意味でも、この国を大逆事件の方向へ引き戻す愚行・蛮行だった。同法は廃止すべきだと思う。

ザトウクジラ海面に現れたザトウクジラ。頭を水面から上に出すスパイホップや胸びれで水面をたたくフリッパリングを繰り返した=2008年3月、南極半島付近、小林浩幸撮影
 私が前グリーンピース・ジャパン事務局長であり、任期中の2008年にいわゆるクジラ肉持ち出し事件が起こったために、この連載でそれについての言及を期待する読者もいるだろう。たしかに、日本では1990年代ぐらいから捕鯨が国策同然の扱いとなり、それに反対する者は非国民か国賊のように攻撃されるという不思議な風景が定着していて、クジラ肉の一件はミニ“大逆事件”だったのかもしれない。
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