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宇宙インフレーション理論の「最初の直接証拠」発見に私が興奮した理由

大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長 、 カリフォルニア工科大学教授 ・理論物理学研究所所長

 南極点のアムンゼン‐スコット基地に設置されたBICEP2と呼ばれる望遠鏡で、初期宇宙からのマイクロ波を観測してきた研究チームが、3月17日に「宇宙インフレーション理論の最初の直接証拠を発見した」との発表をした。これを聞いて、私はとてもワクワクした。宇宙の誕生直後の様子がわかるようになっただけでも素晴らしいが、この発見は、自然界の基本法則の探究という物理学の大きなテーマを、次のステージに進めるものでもある。また、私の研究対象である超弦理論とも深いかかわりがある。

宇宙の歴史の模式図。インフレーション時代に出た重力波(一番上)の情報が、宇宙誕生38万年後から届くようになった光を通して見えたという=BICEP2研究チーム提供

 今から138億年前に誕生したこの宇宙は、最初は高温高密度のプラズマ状態にあった。現在私たちが光で見ることのできるのは、温度が下がりプラズマ状態が終わった誕生後38万年の姿である。この最古の光の観測と、既に確立している物理法則を組み合わせると、私たちは宇宙開闢から1秒後の状態まで確信を持って語ることができる。今回の発表は、これを1兆×1兆×1兆分の1秒(10のマイナス36乗秒)後まで遡るものだ。その内容については既に報道されているし、私自身もブログ記事を書いているので(http://planck.exblog.jp/21835733/http://planck.exblog.jp/21848886/)、ここではその意義について語ろう。

 今回の発見には、一昨年の夏に発表になったヒッグス粒子の発見と共通する部分がある。ヒッグス粒子は、素粒子の間に働く力の性質を説明し、素粒子の質量の起源を明らかにするために、今から50年前に理論物理学者が紙と鉛筆で計算して予言したものだった。この理論的予言が、一周27キロメートルという巨大な加速器を使い、何千人もの実験物理学者や技術者を動員した実験で見事に検証された。人間が頭で考えたことが、10億×10億分の1メートルという極微の世界で実際に起きていた。これは理性の力の勝利だったといえる。

 宇宙インフレーション理論も、宇宙の始まりについての様々な謎を説明するために、日本の佐藤勝彦や米国のアラン・グースらが、今から30年前に提唱したものだった。理論物理学者たちが、素粒子の性質を説明するためにヒッグス粒子を考え出したように、佐藤やグースの理論では、宇宙の急激な膨張を引き起こすインフラトンと呼ばれる素粒子を想定する。このインフレーション理論の最も重要な予言を、マイクロ波の観測で検証したというのが今回のBICEP2の発表だった。宇宙が始まった直後、1兆×1兆×1兆分の1秒後に、紙と鉛筆で計算した通りのことが起きていた。この発表を聞いた佐藤は、「30年間の技術の進歩で、観測が可能になった。大変ありがたい話。理論を提唱した当時は、宇宙が始まってすぐのデータが得られるとは思わなかった」と感動を表した。

 理論的予言が長年たって検証されたという点では共通する二つだが、科学史においては、今回の発見が正しければ、ヒッグス粒子の発見よりももっと重大な事件になると思う。いずれも偉大な業績であり、その重要度を比較するなどもってのほかとお叱りを受けるかもしれないが、そのように思う理由を説明しよう。

 ヒッグス粒子は、

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