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続・小保方会見で解明されなかった問題は何か〜研究の文脈に注目せよ

下條信輔

(5)(これが一番伺いたいことなのですが)どんな独創的な発見も、常にそれに先立つ先駆研究と研究の文脈がある訳です。それ故過去の捏造問題でも、そうした一連の先行研究のどこまでが正しく、どこからが捏造だったのか、が問題となりました。今回のケースについても、先生は前便で次のように書かれています。

分化した細胞にトリプシン処理という細胞膜にダメージを与える操作をし、さらに乳酸菌やその他の細菌感染を起こすことによって幹細胞的な細胞を誘導した、という論文は多数出ています。Cell Reprogrammingという雑誌も発行されているくらいですので、ありとあらゆることが試されているのではないでしょうか。

さしあたりバカンティ教授グループの一連の公刊論文と「spore説」の信頼性が問われることになるのでは、と思いますが、この「spore説」というのは? またこのあたりの今後の検証について、どのような見通しをお持ちですか。

 これまたバカンティらの論文の信憑性に疑義があるので難しいのですが、彼らは「多能性幹細胞は胞子(spore)のような小さな細胞である」ということを主張していました。そのために、「細い管」を通すことによって、そういう小さな幹細胞を「選別」しようとしていた、というのが始まりです。

 これが、もしかしたら細い管を通すというストレスを加えることによって、幹細胞が「誘導」されるかもしれない、という仮説に変わったのです。

 「選別」というアプローチは、「本来、生体内にも、少ない数かもしれないが、多能性幹細胞が存在している」という立場に立っており、「誘導」は、理想的には「どんな細胞も初期化できる」という立場です。

 「iPS細胞」はもちろん後者(誘導)であり、ただしそれは強引に、転写制御因子を4種程度人工的に導入することによって達成されるのですが、山中さんの発表の後、世界中の研究者が作ることができるようになりました。

 前者の「選別」に関しては、例えば東北大学の出澤真里教授の「MUSE細胞」があり、酵素処理などの「ストレス」に耐えうる細胞が多能性を獲得しやすい、と主張しています。

 オリジナルのiPS細胞のような遺伝子導入を用いない方法については、この他にもある種の低分子化合物を加える方法、細菌を用いる方法などもあるので、STAPだけが素晴らしい、夢のような方法、という訳でもありません。

 このあたり、他の方法で多能性幹細胞を誘導している日本人研究者も表立って声を挙げていませんが、仮にSTAPが本当だったとしても「酸処理でうまくいくなら、とても簡便な新しい誘導方法の一つですね」という扱いのように思います。

 日本におけるSTAPフィーバーは、明らかに異常な状態なのではないでしょうか? その背景には、最初の記者発表における過剰な演出と、それに見事にはまったメディアの影響があると思います。

(6)今回の事件で、科学を取り巻く、科学そのものではないいろいろな側面(若い女性であったこと、割烹着のような「意匠」、研究の倫理と教育、若い研究者に大きな裁量を与えたり、不安定な身分で性急に成果を求める制度の善悪など)にも、注目が集まりました。 ・・・続きを読む
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筆者

下條信輔

下條信輔(しもじょう・しんすけ) 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授。認知神経科学者として日米をまたにかけて活躍する。1978年東大文学部心理学科卒、マサチューセッツ工科大学でPh.D.取得。東大教養学部助教授などを経て98年から現職。著書に『サブリミナル・インパクト』(ちくま新書)『〈意識〉とは何だろうか』(講談社現代新書)など。

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