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省エネや原発ばかりにとらわれるな:温室効果ガス対策

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が新しい中間報告を出して、温室効果ガス増大の脅威を今までより更に具体的に警告した。現在の環境を維持するには2度の上昇で押さえなければならないが、今のままでは今世紀中に4度の上昇となって、環境が大きく変わる地域が出て来る可能性があるとの内容だ。

 私は、半年前に第5次報告書(最終原案)が出された際、その内容が科学的見地から不備があるとWEBRONZAで書いたものの、同時に、温室ガスの増加を出来るだけ抑えることに、私を含めた懐疑派も賛成していることも述べた。温室ガスの増加は確かに脅威であるし、さらに石油などの資源保護の観点や石炭燃料による大気汚染防止の観点からも重要だからだ。

 だが、これら賛否両論を超えて、危惧することがある。それは、何度も「このままでは危険」と危機を訴えたゆえに、多くの人々が「年中行事」とばかりに警告に不感症になりつつあることと、それに伴って、対策が硬直化していることだ。そこで、本稿では日本で軽視されている視点を、個人的な提案を含めて紹介したい。

 まず、温室ガスの影響に関してである。欧州では温暖化の損得を、より具体的・客観的に議論すべきだという意見が出始めている。温暖化には、冷帯が耕作地に変化する効果や、暖冬の恩恵もあるからだ。となれば、予測される温度上昇でどういう影響が出るかを、弊害だけでなく効用を考慮に入れて評価し、何処までなら現代の生活水準を守るトレードオフとして許容範囲なのか、それとも生活水準を落とさなければならない程に深刻な影響が出るのか、客観的に予測することも重要となる。

 そういう視点でみると、私には温度の上昇よりも、炭酸ガスが海や湖沼に溶込むことでpHが変化することのほうが余程重大だと考える。私の住むスウェーデンでは、その昔、欧州が今の中国みたいに硫黄酸化物(石炭の燃えかす)を大量にまき散らした際に、南部の湖沼が酸性化し、魚や水草が死に絶えてしまった。酸性化の問題は湖沼や海だけでなく、土地にも当てはまる。日本のツツジは、こちらの「園芸用土」では100%死滅する。植物がpHに敏感なことは園芸の経験のある方なら分かるはずだ。

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