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日本学術会議が検討開始:高校理科教育のあるべき姿

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 私は現在、日本学術会議科学と社会委員会のもとに設置された科学力増進分科会の委員長をしている。さらに2014年4月からそのもとに高校理科教育検討小委員会を立ち上げた。高校の数学と理科に関しては、平成24年度入学生より新学習指導要領が実施されたばかりではあるが、次期学習指導要領に関する議論が本格化する前に、高校における理科教育のあるべき姿について、学術会議としての意見をまとめて発信することをめざしたものである。

拡大金沢泉丘高校での土曜午後の特別実習「サイエンスグランプリ」。普通科と理数科、文系と理系に関係なく希望者が参加する。この日のテーマは「科学捜査」=2014年2月、比名祥子撮影

 高校の理科教育については2012年10月7日の本欄で「物化生地と月の満ち欠け」というタイトルで論じたことがある。そこでは、日本の高校の理科教育が物理・化学・生物・地学という4つの科目に完全に分断された縦割りで進められていることに対する弊害を述べた。そのまとめとして、それぞれの科目の代表者ではなく、日本学術会議こそ、より俯瞰的な立場から高校理科に関する議論を主導していくべきだ、と書いた。むろん批判は易しいが実行は難しい。結局、自分がその役目を負うことになってしまった。

 そもそも高校の理科教育では何を目的とすべきなのか。これは人によってかなり意見が分かれよう。私自身は教育の専門家ではないが、科学者の一人として個人的な意見を述べるならば以下のようになる。

1) だまされることなく自分で判断して生活を営むために必要最低限の科学的思考方法を身につける (政治家やマスコミを含めて、現代社会では明らかな誤りが正されることなくごまかされている例が数多い。科学を学ぶ第一義的な目的は、そのような欺瞞に惑われて不利益を被らないためのものの考え方を学ぶことにほかならない)

2) 自然界は不思議なことで満ち溢れており、それを解明するための科学という営みの魅力を知る(科学は難解でつまらないものではなく、自分が知らない新たな世界へ誘ってくれる楽しいものである。世界のすばらしさを再認識させてくれることが科学を学ぶ意義の一つであることは強調しておきたい)

3) 高校卒業以降、直接科学を学ぶ機会のなくなる生徒に対しては、現代社会における科学の役割と面白さを伝え、かつ必要となった時に自分で学ぶことが可能なために必要な最低限の知識を身につけてもらう(膨大な科学の知識を無理に詰め込むのでは、逆に科学嫌いを増やすだけである。将来、必要に応じて自分で調べ学ぶ手段は無数に存在する。その段階で、それらを読んで理解するために必要な基礎リテラシーを身につけておけば良いだろう)。

4) 理工系大学に進学する生徒に対して、その専門教育で必要となる基礎知識を提供するとともに、科学・技術の発展に貢献できる人材を開拓し育成する(科学・技術の永続的な発展は、現代社会の諸問題を解決する上で本質的な条件である。そのための人材を育てることは高校教育の重要な使命である)。

 しかるに、 ・・・続きを読む
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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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