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いったん取り消し、書き直させて再審査すべき―世界基準からかけ離れた早稲田大学調査報告

大栗博司 理論物理学者、カリフォルニア工科大学教授

 早稲田大学が発表した、「大学院先進理工学研究科における博士学位論文に関する調査委員会」による報告書を読み、学問の根幹に関わる問題があるので看過できないと思った。

 そのことについて書く前に、STAP細胞論文をめぐるこれまでの騒動についてもコメントしておこう。今年の春に捏造疑惑が起きたときには、「こうした問題は米国の大学や研究所でも起きそうなことだ」という感想を持った。私の所属するカリフォルニア工科大学で人事委員長をしていたときに何度も経験したことであるが、才能と冒険心のありそうな学生を学部や大学院の頃から目をつけておいて、斬新な研究成果をあげれば他の大学に取られる前に破格の条件で採用し、大学院を出たばかりであっても最新施設の実験室や潤沢な研究費を与えて自由に研究させるというのはよくあることだ。若手にチャンスを与えるというのはリスクも伴うが、これが米国の科学研究に活力を与えている。

 最先端の研究を行う大学や研究所の重要な使命のひとつは、既存の考え方を根本から変えるようなブレークスルーを達成することなので、リスクのない人事などありえない。問題は、人事に失敗したときにどう対処するかである。この点において、今回の理研の対応には問題があったと思う。たとえば、現在行われている再現実験には、日本分子生物学会の大隅典子理事長の声明にもあるように、科学的価値が乏しい。

 先ほども書いたように、このような事件は米国で起きても不思議ではない。たとえば、2000年から2002年にかけてベル研究所のヘンドリック・シェーンが起こした捏造事件は、今回のものより規模が大きい。だから、むしろ今回の騒動によって日本の大学や研究所が「出る杭は打たれる」という間違った教訓を学んで、リスクのある人事を避けるようになるのが心配だ。

 これに対し、今回の早稲田大学の調査委員会の報告書は、私には理解できない。大学の内部だけに通じる論理で書かれており、博士号に対する世界基準を逸脱したものだからだ。

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筆者

大栗博司

大栗博司(おおぐり・ひろし) 理論物理学者、カリフォルニア工科大学教授

カリフォルニア工科大学ウォルター・バーク理論物理学研究所所長およびフレッド・カブリ冠教授。東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。アメリカ芸術科学アカデミー会員。1962年生まれ。京都大学理学部卒、東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを歴任。著書に『重力とは何か』『強い力と弱い力』『数学の言葉で世界を見たら』(いずれも幻冬舎)、『大栗先生の超弦理論入門』(ブルーバックス)など。

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