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続・エボラ出血熱の対処法〜「日本は安全」ではない

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 エボラ出血熱のアウトブレーク。このニュースを見て「自然は恐ろしい」と感じた人は、半分のメッセージしか受け取っていない。残り半分は「文明は恐ろしい」というメッセージだ、と前稿で書いた。それを受けて、人工要因を3つ挙げた(密林開発、人工環境による病原体の変異、温暖化)。

エボラウイルスの透過型光学顕微鏡写真(ロイター)

 伝染病流行の人工要因は他にもある。その第四は感染の拡大経路だ。上記3つの人工要因に加えて、地球のグローバル化、特に輸送ネットワークの拡大と人間の移動が、流行に拍車をかけている。今回のエボラ流行でも、現地からスペインに戻って亡くなった司祭のケースがあった(8月13日付、読売、CNN)。他にも外国人医療関係者をはじめ、人の動きに沿って「飛び火」している。

 日本でも、現に成田空港や関西空港で熱帯産の蚊が発見され、それどころか成田空港の近くに住む主婦が、外国に行ったこともないのに熱帯熱マラリアにかかった例すら報告されている。杞憂ではないのだ。また米国西海岸を中心に流行を繰り返している西ナイルウイルスについても、同じような航空経路が推測されている。米国の別の疫学的研究は、空港と州間を結ぶ高速道沿いに感染症が広がることを示している。

 以上見て来たように、エボラに限らず熱帯性伝染病の流行は、人工と自然の激しいせめぎ合い、圧倒的に見えた人工の力に対する自然のしぶとい反撃と見ることができる。「伝染病は近いうちに絶滅できる」という信念を、世界保健機関(WHO)をはじめとする専門家自身が1970年代には公言していた。だがそれは今や、完全に覆された。むしろ医療を含む文明が、アウトブレークに好適な環境を用意していると言うべきなのかも知れない。

 だが人工的であることは、その病巣が現代文明に深く根ざすことを意味すると同時に、対処可能であることも示している。直近の緊急対策と、より巨視的で文明論的な観点の両方が求められている。

 厚労省は

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