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米国はなぜ石炭火力をやめるのか

石井徹

オバマ米大統領は今年6月、石炭火力発電所に対する厳しい規制案を発表した。発電部門からの二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに30%削減する内容だ。CO2を回収して貯留する手段(CCS)がなければ、事実上、石炭火力発電は存続できない。野党・共和党や化石燃料関連の産業界などからは反発の声が上がるが、米環境保護局(EPA)などによって準備は周到に進められてきた。

 日本では1990年以降、石炭火力発電を増やし続けてきた。2011年度の石炭火力の発電量は2400億キロワット時で、90年度の3倍以上だ。4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」でも石炭を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原発の新設が見込めない中でCCSなしの石炭火力の建設計画が相次いでいる。国外でも、欧米を中心とする国際的な開発金融機関が石炭火力への融資基準を厳しくしているにもかかわらず、日本は石炭火力発電の海外展開を支援している。

 米国はなぜ石炭火力発電をやめようとしているのか。日本はどう対応すべきなのか。元EPAで環境コンサルタントのブルース・バッハイト氏に聞いた。EPAではナショナルプログラムマネジャーとして大気浄化法の施行に携わり、04年からは環境コンサルタントとして企業や州政府に助言している。

ブルース・バックハイト氏拡大ブルース・バックハイト氏

 ――今回の規制強化の目的と意義は何か。

 米国での石炭やガスによる火力発電所からのCO2の排出を削減し、世界にリーダーシップを示すための最初の大きな一歩だ。

 ――ポイントはどこか。

 それぞれの州に5原則に基づく規制の実施を求めている。一つ目は、既存の火力発電所に対する効率の向上、装置や維持管理の改善だ。二つ目が最も重要だが、既存の石炭火力を出来る限りガス火力発電に替えていくこと。ほぼ半分が対象で、とても大きな削減になる。三つ目は、特定のいくつかの州では、既存の原発に対して何らかの補助金を支出する。これは、原発がガスや再生可能エネルギーに対して競争力をなくしているからだ。

 四つ目は、現在の大きな要素だが、国内での再生エネの拡大。5番目が、スマートメーターのような省エネプログラムの普及だ。

 実際には石炭火力の使用を減らし廃炉を加速し、天然ガスや再生エネを推進する効果がある。

 ――オバマ大統領の方針は、国際的にはどんな意味を持つのか。国際的な温暖化交渉にはどのような影響を与えるのか。実際に交渉に大きな影響力を持つのは米中両国だが、中国への影響はどうか。

 この2年の国際的な温暖化交渉の合意に向けた、オバマ政権のリーダーシップを示すためのものだ。米国や温暖化防止に積極的に取り組む国が、交渉のなかでより強い影響力を行使できるようになると期待される。

 推測になるが、この問題での米中の大きな動きを見ると、両国間の議論は間違いなく昨年から続けられてきたはずだ。

 ――日本は、国内外で石炭火力発電を推進しているが、この動きについてどう見るか。

 高効率な石炭火力発電の輸出は、温暖化防止の面でも国際貢献になると、政府は主張している。

 日本は三菱重工のような重工業産業の雇用が大きく、JBIC(国際協力銀行)が海外で進めるのも理解できる。しかし、コストや経済の傾向を見れば、日本は過去の技術にこだわるよりも将来の技術を重視して、もっと賢くなるべきだ。

 石炭火力からの排出を10%削減すれば温暖化が解決するなら、石炭火力の輸出も国際貢献と言えるだろう。だが、超々臨界発電やIGCC(石炭ガス化複合発電)でさえ、温暖化問題を解決するには排出量が多すぎる。それらに頼っていたのでは、問題は解決されない。

 ――彼らは「日本が高効率の石炭火力を輸出しなければ、中国などから効率の悪い発電施設が入るだけだ」と言っている。

 最近訪れたミャンマーやベトナムでは、いろいろな企業が石炭火力発電を売りに来ていた。装置があまりにも高価なので、ミャンマーは大気汚染を規制していない。汚染がひどく、超臨界だろうが、亜臨界だろうが関係ない。だれか別の人がミスをしたからといって、あなたがミスをする必要はない。超臨界は、確かに亜臨界よりましだろう。だが、なぜ日本は、技術や産業をもっと再生エネに振り向けないのか。なぜ日本は、もっと再生エネをやらないのか。

 米国は、数十億ドルを再生エネに投資している。太陽光発電技術の競争で中国に負けなくないからだ。日本は、走り抜けていく列車を見ている傍観者のようだ。

 ――米国が石炭火力の規制に乗り出したのは、シェールガス革命があったからだという指摘がある。

 シェールガスは確かに追い風になった。景気低迷を終わらせるのにも役立った。シェールガスが安いということは、石炭だけでなく再生エネと比べても価格競争力があるということだ。米国は、石炭を規制する半面、再生エネをさらに進めている。日本はガスが高いのだから、再生エネを進めるのは自然であり、簡単であるはずだ。

 シェールガスがあったから石炭規制が容易になったのは確か。なくても石炭規制が可能だったのかどうかは分からない。

 だが、コスト面で見れば、CO2を減らすのに一番安いのが既設の石炭火力の運用改善で、トン当たり6~12ドル。次が省エネや再生エネで10~40ドル。石炭発電をガス発電で置き換えるのは30ドルで、実は結構高い。

 ――日本の火力発電は、本当に効率がいいのか。

 石炭火力に関しては、世界でも最高の技術だと思う。IGCCについては、ほかとあまり変わらないと思うが、技術は、中国やインドより上だと思う。GEのIGCC技術も優れているが、三菱重工のいくつかの技術は世界最高だろう。

 米国では、石炭、ガス、風力のすべての発電設備について、時間ごとの運用データがウエブ上(Air Markets Program Data)で公開されているので、私たちはデータから問題点や解決策について分析することができる。

米国の全発電施設のデータが見られるサイト拡大EPAのサイトでは米国の全発電施設の時間ごとの運用データが見られる

 日本政府は、既存の火力発電の効率改善について詳細な分析をしていないのではないか。既存の発電所の効率をよく運用した方が、新たに作るよりも安くつく。経済産業省に既存の発電所の運用改善について尋ねたが、「そのへんはあまり見ていない。うまくいっていると考えている」という答えだった。だが、データなしでどうやって分かるのか。 ・・・続きを読む
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筆者

石井徹

石井徹(いしい・とおる) 朝日新聞編集委員(環境、エネルギー)

朝日新聞編集委員。東京都出身。1985年朝日新聞入社、盛岡支局員、社会部員、千葉総局次長、青森総局長などを務めた。97年の地球温暖化防止京都会議(COP3)以降、国内外の環境問題やエネルギー問題を中心に取材・執筆活動を続けている。共著に「地球異変」「地球よ 環境元年宣言」「エコウオーズ」など。

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