2014年09月08日
今年に入り、韓国の論文捏造事件の主役・黄禹錫(ファンウソク)元ソウル大学教授の報道が相次いでいる。ネイチャー2014年1月14日号の記事のタイトルは「クローニング・カムバック」、サイエンス1月17日号の記事は「ザ・セカンド・アクト(第二幕)」。いずれも、青い手術着姿の近影を載せ、一度は表舞台を去った博士の復活を伝えている。
ネイチャーに掲載された年表は「上昇、転落、そして上昇の黄禹錫」の題がついている。ソウル大学教授だった博士は、2004年にヒトクローン胚から胚性幹(ES)細胞をつくったとサイエンスに発表。05年5月、さらに11の細胞株をつくったと主張する第二論文を発表した。
第一論文が出たあと、大統領から最高勲章である「創造章」が与えられ、博士の特別記念切手も発行された。第二論文のあとには「第一号最高科学者」に選定された。ソウル大学内では黄禹錫研究所の建設が始まり、「世界ES細胞ハブ」も大学病院内にできた。
しかし、卵子の入手方法が倫理的でないという疑念が欧米の研究者の間に広まっていった。通常のES細胞は体外受精で使われなかった受精卵から作る。ヒトクローン胚は第三者の細胞核を未受精卵の核に入れ替えて作るので、未受精卵を入手する必要がある。その未受精卵をどうやって手に入れるのか。自分に直接のメリットがないのに卵子を取り出して提供する女性がたくさんいるとは考えにくい。謝礼欲しさに提供するのは、倫理にもとるというのが欧米の常識だった。ついに06年11月に共同研究者のジェラルド・シャッテン米ピッツバーグ大教授が博士との決別を宣言する。
当初は「自発的な提供」と説明していた博士が卵子売買を認めるや、研究内容そのものに対する疑惑が次々出てきた。ソウル大学が調査を開始すると、まもなく韓国内の共同研究者から「細胞は存在しない」という暴露発言が飛び出した。ソウル大調査委員会は06年1月に「クローンES細胞は存在せず、データは捏造だった」と認定した。
「ミス」ではなく「完全な捏造」と断定されたことに世界は驚いた。ただし犬のクローンを作ったという主張だけは本物と認められた。
熱狂的な支持者は、この調査結果を信じなかったという。博士は獣医学部の出身だ。ソウル大学医学部は、獣医が世界的な業績をあげたことに嫉妬したのだろうといった解説も流れた。
博士はソウル大学を追われ、政府から与えられた名誉はすべて剥奪された。研究費詐取や生命倫理法違反の疑いで起訴もされた(今年2月に最高裁で懲役1年6ヶ月、執行猶予2年の判決が確定)。
そんな博士を救ったのは、支援者たちだった。06年7月に350万ドル相当の基金を集めて「スワム生命工学研究財団」を作ったのである。スワムとは、黄博士の愛称だという。
いったいどういう人たちがお金を出したのか。
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