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日本型不祥事の心理構造 〜 偽装、改ざん、水増し、やらせ

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 偽装、改ざん、水増し、やらせ。分野を問わず、大小取り混ぜて連日そういうニュースがメディアをにぎわせている。

牛肉の銘柄偽装を謝罪する木曽路の松原秀樹社長(中央)ら=8月15日、名古屋市中区、 大隈悠撮影

 「木曽路」の食材偽装は、最近起きた典型的な不祥事だ。しゃぶしゃぶの全国チェーン「木曽路」が、松阪牛、佐賀牛などのメニュー表示で別の国産和牛を提供していたことが判明(8月15日、各紙)。「3店舗の料理長が材料費を削減し、店舗の利益を得るために偽装していた」という。

 TVカメラの前で幹部が雁首(がんくび)をそろえ、深刻な顔で頭を下げる。そんなシーンはもう見飽きた、と感じた人は多いだろう。どうしてこんな世の中になってしまったのか、と。筆者も(多くの人々と同じく)「またか」と思わず顔を背けた。ただこの「またか」を少し深堀りすると、日本型「不祥事の構造」が見えてくる。

 「木曽路」の問題自体は小さなニュースかも知れない。しかし冒頭で述べたように偽装、改ざん、水増しは様々な分野で発覚している。しかも発覚したのはたぶん氷山の一角に過ぎない。そう考えると問題の根は深いことがわかる。以下、順を追って分析しよう。

「皆やっている」

 木曽路の謝罪会見で社長らは、「(問題の店長らに)プレッシャーを与えたことはない」と釈明した。だが支店が利益を増して上からの評価を得ようとしたこと以外に、動機は考えにくい。そして何よりも印象的なことに、社長が本音では「あまり悪いと思っていない」ことが、会見からも見てとれた。

 「利益を出すため、料理長への過大な負荷が背景にあるのでは」と記者から問われると、社長は「そういう環境を作ったとは思っていない」と語気を強めた。さらに(「問題を引き起こしておいて、なんだが」と前置きしつつも)代わりに使ったのは「和牛特選霜降肉」なので「味の面で大きな差はない」と強調した。

 食材偽装は今に始まったことではない。数年前からニュースが増えた気がするが、古くはどこまで遡ればいいかわからない。そして、これはひとり外食業界に限らない。金融、政治、そして教育、科学の世界にまで、偽装、改ざん、水増しがはびこっている。TV番組のやらせもそうだ。「多かれ少なかれ皆やっている」「本音では悪いと思っていない」というのが、その共通のメンタリティー=心性だ。

日本人は「局所解」に陥りやすい

 結論を先取りしていうと、そこには深層心理的な問題、とりわけ

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