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モノづくりの主役は大企業からエンジニアへ。日本の強みを生かす絶好のチャンスが来た!

鎌田富久 TomyK Ltd.代表

 「おー、これスゴいなぁ」、デモを見た人々から沸き上がる驚きの声にニンマリ、エンジニアが心の中で「やったー」と叫ぶ瞬間だ。この1〜2年こうしたシーンに何度も遭遇した。その後、モノづくりベンチャーとして立ち上がる企業が増えてきている。

 もともと日本では、細部にこだわるモノづくりの精神や、職人芸と言われる技の文化が脈々と受け継がれている。インターネット経済の浸透、3Dプリンターをはじめとする工作ツールの進化、ソーシャルネットワークサービス(SNS)による新しい情報の伝達・拡散、クラウドファンディングを活用した新しい資金の集め方、これらのネット時代の新たな環境が、モノづくりの世界を根本的に変えつつある。日本の強みを生かす、絶好のチャンスがやってきたのではないだろうか。

従来のハードウェアビジネスは重量級

拡大図1. ハードウェア製品事業の従来モデル

 かつて家電製品などのハードウェア製品のビジネスは、大きな資本が必要で、ベンチャーにはハードルが高い領域であった。ハードウェア製品を市場に出すには、製造ライン、販売営業、宣伝やマーケティングなど、開発以外に多くの機能が必要になり、それぞれ専門のチームや部門を動員することになる(図1)。もちろん、社外のパートナーと組むこともある。1つの製品を市場に出すには、これらすべてに係わる費用を見込み、連携した全体計画を立案する必要があるわけだ。そして、すべてのコストを見込んだ上で、利益がでるように組み立てる。これが事業計画だ。

 このモデルは、小規模であっても本質的には変わらない。すべての計画を盛り込んだ事業計画は、非常に重要ということになり、それが承認されないと何も進まない。何度も見直され、やっと承認されたころにはスケジュールがギリギリになってしまい、開発にしわ寄せが来るというのはよくある話だ。ところが、こうした従来のモデルとは、全く違う事業スタイルが登場した。

エンジニアが主役「まずモノをつくろう」

 モノづくりの原点とは、「何かを開発して、誰かの役に立つ」ということだ。ソフトウェアの世界では、これまでも多くのベンチャー企業が登場し、新しい市場を切り開いてきた。そして現在、ハードウェア分野、特にインターネットと連携したIoT(Internet of Things)と呼ばれる分野で、続々とベンチャーが登場してきている(写真1)。

拡大写真1. モノづくりベンチャーが集まるMaker Faire(米シリコンバレー)

 その背景には、3Dプリンターやレーザーカッター、簡易CNC(コンピュータ数値制御)装置などの安価な工作ツールの進化がある。また、これらの装置が整備されたファブラボ(fabrication Laboratory)やテックショップが登場し、装置を買う必要もなく、様々なアイデアを低コストで試せるようになったことも大きい。

 さらに、次の3つの革新が重なって「事業計画がいらない」ぐらい低予算で、ハードウェア製品を「まず」市場に出すことが可能になった。

(1) ネット販売による流通革命
 在庫管理や、流通ルート、販売・代金回収、発送などの一連の業務は、10年前には経験や資本力がないと手が出せなかった。ところが、Amazonをはじめとするネット販売は、この状況を一変させた。製品を組立工場で梱包してAmazonに送れば、あとはすべてやってくれる。手数料も手頃だ。ベンチャー企業は、製品開発に集中できる。

(2) SNSによる宣伝革命
 FacebookやTwitter、その他のSNSで、今や一瞬にして、ニュースが世界中に広がる。斬新な製品をリリースしてSNSで注目されれば、ファンがファンを呼び、大きな宣伝効果が期待できる。製品誕生のストーリーや開発者自身の思いを伝えるなど、舞台裏を見せることで親近感がわく。また、開発段階からユーザーの意見を聞いたりして、ユーザーを積極的に巻き込んで一緒に開発して行くという、言わばオープンイノベーション的なやり方も効果的だ。こうした手法をうまく使えば、開発プロセス自体が宣伝にもなる。

(3) クラウドファンディングによる資金調達革命
 初期開発コストが下がったとはいえ、ある程度の数量のハードウェア製品を製造するには資金が必要になる。そこがソフトウェアとは違うところだ。この部分を補う仕組みとして、クラウドファンディングが使える。世界最大手は、米Kickstarterで、ここには世界中から新しいプロジェクトが集まる。自分たちが開発しようとしている製品を具体的に提案し、欲しい人を募る仕組みだ。要するに事前予約である。注目されれば、1億円以上が集まることもある。これは、資金を集めると同時にファンを作ることにもなる。

拡大図2. モノづくりベンチャーのスモールスタートモデル

 こうした新しい手法を活用すれば(図2)、エンジニアが作りたいものを全力で開発して、製品販売までたどりつける。「エンジニアが主役」の時代が来たというわけだ。世界初のワクワクするような革新的な製品には、資金も人材も集まる。必要な資金と人材は後からついてくるのだ。

大企業もこの流れに乗るには

 先日開催された最先端IT・エレクトロニクス総合展CEATEC(10月7日〜11日、幕張メッセ)では、ソニー、日立製作所などが不参加となり、出展企業数は過去最低となった。一方で、今年はじめてハードウェアベンチャーのコーナーが設置され、モノづくりベンチャーは勢いがあった。特に、IoTに関連するベンチャーが多数出展していて盛況であった。

拡大写真2. CEATECのハードウェアベンチャー・エリア

 すでに豊かになった先進国では、もはや一様な大量生産品は付加価値の小さいコモディティとなり、人々の好みの多様性に合致した製品にこそ価値がある。多種多様なニッチ市場の集合体というのが、今後のニーズになるだろう。しかし、従来の大企業の大量生産品向けのモデルでは、ベースのコストが高すぎてまったく対応できない。

 こうした状況へ大企業が取れる対策の1つは、ベンチャー企業を積極的に活用する戦略だ。出資や提携によって、ベンチャー企業と組み、市場がある程度大きくなった段階で、買収などにより本格的に参入する。米国で多いパターンと言える。M&Aが活性化すれば、資金の回転が良くなり、スタートアップへより資金も集まり、好循環になる。

 もう1つは、大企業の中で、従来とはまったくやり方を変えて製品を出すという方法だ。大企業のエンジニアの中にも、事業計画が承認されず、じれったく思っている人はいるはずだ。そこで、エンジニアを主役にして、従来の「事業計画ありき」のやり方をやめる。大企業の優位な点は、何と言っても社内にそれぞれの専門分野で優秀な人材やノウハウがそろっていることである。こうした力をちょっとしたボランティアで活用できるだけで(言わば、プロジェクトの社内ファンを作る)、多くの課題は解決するはずだ。半年ぐらいで製品を出す本気度で取り組めば、成功する可能性は高いのではないか。

* * *

 ヒトの進化は、道具を作ることから始まった。モノづくりは単純に楽しいし、周囲の人たちの役に立って喜ばせたいという思いは、太古の昔から受け継がれてきた。エンジニアがアイデア1つでモノづくりベンチャーを起こせる環境が整ったというのは、今の若者たちにとって、すばらしいチャンスだ。高齢化社会の課題先進国の日本、至るところにチャレンジすべきテーマがある。大学・大学院卒業後の進路の選択肢として考えるのもいいし、大学や研究所の研究者が自らチャレンジするのもすばらしい。社会全体で、こうした動きをサポートし、日本から様々なイノベーションが出現し、世界で成功することを期待したい。


筆者

鎌田富久

鎌田富久(かまだ とみひさ) TomyK Ltd.代表

TomyK Ltd.代表。株式会社ACCESS共同創業者(前CEO)。東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。東京大学在学中の1984年に荒川亨氏とともにACCESSを設立し、2001年に株式公開、モバイルインターネットの技術革新を牽引した。2011年に退任。スタートアップを支援するTomyKを設立し、東大発ロボットベンチャーSCHAFT(米Googleが買収)の起業を支援。現在、テクノロジーベンチャー約10社を立ち上げ中。