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学位論文審査-物理学では機能している

現在進められている「不正防止策」はほとんど意味がない

須藤靖 東京大学教授(宇宙物理学)

 昨今の科学研究上の不正や剽窃問題を受けて、日本の学位論文審査システムの信頼性が問われている。物理学分野に関する限りあまり問題はないと感じるのだが、現在強制されつつある「改革案」はいつものようにアリバイ的に形式的制度を変更することだけに汲々としており、いたずらに負担を増やしているだけのように思う。そこで、今回は物理学の場合に限定して、日本のシステムの紹介、アメリカとの比較、現状の問題点をまとめておく。

1 大学院と学位論文

 東京大学の物理学専攻の場合、学部卒業者約70名のうち、2、3人を除きほとんど全員が大学院修士課程(2年間)に進学する。他大学からの入学者を含む修士課程卒業者約100名のうち、6割が博士課程(3年間)に進学する。より広く理・工学系では、修士課程に進む学生は同じく多いものの、博士課程に進む割合は物理学にくらべるとかなり低いようである。

 大学院教育の集大成が学位論文(修士論文と博士論文があるが、以下では博士論文の意味で用いる)である。学位論文の位置づけは、分野によってかなり異なっている。自然科学分野でもはるか昔は、教授になる直前に取得するのが普通であったようだが、今や、とりあえず研究者として自立できる条件を満たしている証拠程度が共通認識であろう。つまり、博士号を持っていたとしても狭い意味での研究者としてのキャリアが保証されているわけではなく、資格試験のようなものだ。

 一方、東大文学部では比較的最近まで博士号を出しておらず、いまでも博士号をもっていない教授は珍しくない。つまり、博士号というのはそれだけ高い価値を持つと考えられていたのだ。

2 学術論文

 そもそも

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