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「敵を作る」政策はやめるべきだ

中東以外も危なくなる危険と、それによる日本経済への打撃を考えよ

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 スウェーデンに25年住む私は未だに日本国籍を保持している。スウェーデンから見ると「外国人永住者」である。13年前の大病で身障者となったために、福祉や気候を考えると老後もスウェーデンに住み続けざるを得ないであろうにもかかわらずだ。

 なぜなら、スウェーデンが年金や福祉で外国人を差別しない政策を取っている(税金を払っているから当たり前なのだが)とともに、日本国籍が安全だからだ。それはスウェーデン国籍や、へたをすると国連籍(国連にも旅券がある)よりも信頼度が高く、科学者という、世界のどこに出張せざるをえないか分からない者に極めて好都合なのである。

 日本国籍が高く評価される理由に、厳しい帰化審査(これには非難もあるが)と共に、世界のどこにも敵国を作らないという全方位外交があった。そういう特質が失われつつあると感じたのが、パリの週刊誌社襲撃事件と、北部イラクと北部シリアの一部を実効支配しているイスラム国による日本人拉致・殺害事件だ。

 類似の誘拐や殺害はイラクやアフガニスタンなどで起こってきたが、それらは組織トップの判断とは思えず、ある種の混乱が一因だった。しかし、今回は組織が日本を名指しで非難した上での殺害で、そこにパリ事件を組み合わせると、他人事で済まない不気味さが残る。

 「イスラム国」による敵視宣言に対し、日本では「国内でのテロの可能性」という世論誘導を招きかねない脅威論と「現地だから危険なのは当然」という自己責任に関する二元論ばかりが目立つが、そこに欧州のことがすっぽり抜け落ちている。海外における日本国籍の強みを失わせる事件であるという認識が足りないのだ。

 欧州で一般人を狙ったテロは、2011年のオスロ事件のように反移民のネオナチによるものが脅威となっており、イスラム系過激派の影響を受けた者によるテロは、2005年のロンドン地下鉄テロ以来未然に防がれている。パリ襲撃事件は久々に民間人がターゲットとなって被害をうけた事件だった。そこに「日本人だから」狙われた事件が加わり、欧州でも日本人に危険が及びかねなくなったとひしひしと感じている。現に日本大使館では注意を呼びかけ、大使館によってはメールで在住日本人に注意を喚起している。

 この危機感は

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