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英語教育の現実的改革私案(下)

幼稚園から英語に触れる環境を増やし、高校の英語は選択制に

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 前稿では過去の英語教育論争を踏まえ、「実際に役立つ英語」という観点から、日本の英語教育は依然として費用対効果が悪過ぎ、と問題提起した。そして英語教育論争で重要なポイントを三つあげた。

初等教育と早期の脳の「柔らかさ」

 ここまで高等教育の英語に少し話が偏ったが、初等の方に目を向けて第四の論点。言語の「臨界期」に注意するべきだが、これが顧慮されていない。

 臨界期というのは、ネイティヴに近い文法/発話能力を身につけるには、ある年齢までの言語習得が決定的に重要、という考え方だ。最近では少し広めにとって「思春期(12〜15歳ころ)まで」というのが通説だが、少し厳密に見ると「10歳〜12歳まで」、「むしろ6、7歳までが重要」とする説もある。

 学問的には異論があり、認知神経科学的にも未解明な部分が多い。だがもっと経験的なところでは、大方が納得している。たとえば商社マンの一家が米国に数年間居住したとしよう。赤ちゃん、小学生、高校生、そしておとなの順に英語習得が早く、発音もネイティヴに近くなる。誰しもが認める事実だろう。

 結局「脳の柔らかさ(吸収の良さ)」の観点から英語教育の費用対効果を見れば、早ければ早いほど良いということになる。データはないが筆者の実感として、小3から始めれば(中学からに較べて)教育効果はざっと10〜100倍、もし幼稚園〜小1あたりから始められれば、さらに2〜3倍と見積もる。

英語の時間を取り入れた保育園も出てきている=2014年9月、山形市の「MY Kindergarten」

 たとえば「一定レベルに達するのに必要な学習時間」を指標に採れば、計量的なデータで検証することもできるはずだ。

早期教育に弊害は無いのか

 これに対し外国語を早期に「刷り込む」弊害として、バイリンガルの子どもで言語障害を起すケースが稀に報告されている。だがこれは言語環境が極めて拮抗した(50−50の)場合で、平均的な日本の家庭ではまず問題にならない。早期教育と言っても、100−0だったのを最大でも90−10ぐらいにしようという話なのだ。

 外国語を早期に教えると、日本語独特の脳の発達が損なわれるという懸念もある(本欄高橋真理子さんの論考「 認知心理学からの小学校英語反対論」参照)。しかしこれも筆者には杞憂と思われる。

 2011年の時点で

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