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テーマ原発と裁判

第2、第3の樋口裁判官が出る条件

高浜原発の再稼働差し止め決定 「住民側4勝目」の衝撃度

竹内敬二 エネルギー戦略研究所シニアフェロー

 4月14日、福井地裁が関西電力高浜原発3、4号機の再稼働差し止めを命じる仮処分を決定した。日本では住民側が勝った4度目の司法判断になる。住民側の「4勝」、そして「約20敗」。高浜原発は九州電力・川内原発に続いて「もうすぐ再稼働」までこぎ着けた原発だっただけに、電力会社には衝撃だ。ただ問題はこれから先である。司法の世界でこの動きが広がるかどうか?

新規制基準を「ばっさり」

 仮処分決定は明確だった。「高浜原発3号機、及び4号機の原子炉を運転してはならない」。仮処分決定はすぐに効力をもつ。高浜原発は停止中なので目立たないが、しばらくは動かせない。「日本の原発史上はじめて司法が原発を止めた」といえる。

拡大高浜原発3、4号機の再稼働を差し止める仮処分がでたあと、感想を述べる弁護士。2015年4月14日、福井地裁。朝日新聞撮影
 理由は安全性、とくに地震への備えの不十分さだ。高浜原発の基準地震動の大きさはもともと370ガルだったが、その後、550ガル、700ガルに引き上げられた。その間、「安全余裕がある」との理由で根本的な耐震補強工事がなされないまま、数値だけが引き上げられた。このやり方を「社会的に許容できない」と指摘した。もちろんある程度の耐震補強はなされているが、根本的にはやっていないということだ。

 その700ガルについても、「この10年で全国の4つの原発で5回にわたり想定した地震動を超える地震が起きている」として700ガルを超える可能性があるとした。
高浜原発3、4号機は、福島事故後につくられた新規制基準にすでに合格している。厳しくなった新規制基準を仮処分決定がどう評価するかも注目された。

 結果はこれも「ばっさり」だった。新規制基準は「基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えているべき」ものだが、「これに適合しても原発の安全性は確保されていない。新規制基準は緩やかにすぎ、安全性は確保されない」とした。

 どこが足りないのかについても具体的に書いている。(1)基準地震動を大幅に引き上げる(2)外部電源と主給水の耐震性をSクラス(最高クラス)にする(3)使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む。使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにする(4)免震重要棟が必要(設置までに猶予期間があることは認められない)

 要するに、住民側と関電との間で展開された安全性に関する技術論争について、かなり踏みこんで判断し、ほぼ住民側の主張を認めた。

 今回の決定に示された安全と規制の考えはどういう位置にあるのか。福島事故前、日本では「原発の過酷事故は起きない」という安全神話の中で規制を行い、過酷事故を考えていなかった。これは今では誰もが「あれはよくなかった」という。

 事故後は新設された原子力規制委員会が以前より厳しい新規制基準をつくり、それで審査している。それでも大事故をゼロにするとは考えず、田中俊一・原子力規制委員長はつねに「基準の適合性は見るが、安全とはいわない」と言っている。

 今回の決定はこの新規制態勢も「緩すぎる」とした。筆者自身の言葉で要約すれば、原発の大事故はいったん起きたら取り返しがつかない被害を生むのだから、他の科学技術のような安全レベルではとうてい許容できず、「住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす深刻な災害は万が一にも起こらない」ようにする極めて高いレベルが求められるというものだ。

拡大福島事故のあとに起こされた主な原発訴訟と仮処分の申し立て。朝日新聞による
 ただ原子力規制委員会は、今の規制についての認識に事実誤認があると反論している。関電も誤認があると主張している。また決定文の基準地震動の出し方を問題視する部分では、地震学者である入倉孝次郎・京大名誉教授の発言が引用されているが、それはある新聞に出た談話(原告が証拠として提出)が使われている。入倉氏がその引用について、一部だけが使われ、誤認があると苦言を呈している。仮処分で結論を急いだこともあるだろうが、問題が散見される。

樋口裁判長、大飯原発でも「人格権」で判決

 今回の仮処分決定は半ば予想されていた。樋口英明裁判長は、昨年5月、福井地裁における大飯原発訴訟で原発2基の運転差し止めを認める判決を出した人だからだ。(いずれも3人の裁判官の合議で決定)

 大飯判決はそれこそ大きな注目を集めた。個人の尊重や幸福、文化的な生活を送る権利「人格権」に基づいて判断したからだ。

 とりわけ以下のフレーズは有名になった。「多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題を並べて論じるような議論に加わったり、その議論で当否を判断するのは許されない」
「豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、(原発事故で)これを取り戻すことができなくなることが、国富の喪失であると当裁判所は考える」

 「お金の問題ではなく、命の問題だ」ということだ。技術論では「過去に基準地震動を超えたことが5回ある」と、今回と同じ言い方で問題点を指摘している。

  表【原発の訴訟、仮処分で住民が勝った例】
1)2003年1月。もんじゅ訴訟で名古屋高裁金沢支部が設置許可無効の判決
2)2006年3月。志賀原発2号機訴訟で金沢地裁が運転差し止めの判決
3)2014年5月。大飯原発3、4号機訴訟で福井地裁が運転差し止めを命じる判決
4)2015年4月。高浜原発3、4号機の再稼働の差し止めを命じる仮処分を福井地裁が決定

原発裁判の枠組み「伊方原則」

 今回の決定は確かに大ニュースだが、福島事故のあとでも原発再稼働に関して差し止めが認められたのは2件だけで、いずれも樋口裁判長が出したものだ。「原発裁判が事故のあと変わり始めた」とはまだいえない。簡単には変わらない、いくつかの背景がある。

 まず、裁判官といえども法務省の管轄で転勤を繰り返す公務員だ。裁判の中では絶対的な権限をもつが、一方で転勤族サラリーマンともいえ、人事によって出世も左遷もある。国の政策に異議を唱えるのは大変なことだ。

 二つ目は、最高裁がつくった判決の枠組みの存在だ。最高裁は1992年の四国電力・伊方原発訴訟の判決で、原発の審査指針は専門家が高度の知見を持ち寄ってつくったものであり、その審査の過程に見過ごせない誤りがない限り、行政の判断は適法、とした。


拡大世論調査の賛否やいくつかの司法判断だけでは原発政策は変わらない。社会のさまざまな分野での変化が必要
 国、行政の裁量権を広く認めるこの考えが、以後、原発訴訟の基本枠組みとして下級審の判決に影響を与えてきた。見えないガイドラインのようなものだ。

 こうした考えは司法研修所での研究会などの議論で確認され、広げられる。福島事故後、この「伊方原則」は変わったのかといえば、そうではないようだ。

 その経過については、福島事故後4年を機に書かれた朝日新聞の記事(デジタル「国策の果て 岐路の原発:3)原発追認、裁判長の自問 是認の想定、超えた津波」)から一部を引用させていただく。

 【震災翌年の2012年1月、最高裁司法研修所が開いた研究会で、全国35人の裁判官が原発訴訟を議論した。「事故を踏まえ従来の判断枠組みを再検討する必要がある」「被告(電力会社)が相当の資料をもって安全性の立証をする必要がある」などと意見が出され、変化のさざ波を感じさせた。ただ、政権が再び交代した後の13年2月の研究会では「伊方原発最高裁判決の判断枠組みに従って今後も判断していく」「事故リスクをどこまでの確率なら許容するのかというのは(略)政策的決断の問題であって、裁判所の判断になじまない」との意見が中心になった。】

新たな樋口裁判官は出るか

 樋口裁判官はどんな人なのかについて筆者は特別の情報を持っていない。報道などを見ても特段の経歴はない。樋口氏は62歳。1983年に任官、福岡地裁、大阪地裁などで勤務し、2012年4月に名古屋地裁半田支部長から福井地裁に着任した。昨年5月に関電・大飯原発3、4号機の運転差し止めと命じる判決を出した。昨年11月には販売会社員(10代)の自殺の原因についてパワーハラスメントと認定し、会社側に賠償を命じたことで注目された。

 今回の決定は、今更ではあるが「3権分立」の力を思い起こさせた。日本では原発に限らず、行政が訴えられた裁判(行政訴訟)で行政が負けることはあまりない。大きな政策になるほどその傾向は強い。3権の中でも行政が極めて強い国だ。

 しかし、裁判官が独立性をもって判断すれば、原発が止まる。その後の裁判などで覆ることも想定されるが、それでも社会に大きな変化、大きな議論を起こすことができる。

 福島事故後、多くの原発訴訟、仮処分申し立てが出されており、今後、続々と司法判断が予想される。そこでこれまでとは違う司法判断が続くだろうか。

 まずは法曹界内部からの変化に期待したい。これまでの原発判決の多くは「伊方原則」に沿う形で判決が書かれ、結果的に、約20年間にわたって「行政を信じていればいい。大事故は起きない」というイメージを後押ししてきた。この歴史を変えなければならないと考える裁判官や法曹関係者も増えているのではないだろうか。

 もう一つは、世論によるバックアップだ。福島事故から4年が経つ。日本社会は原発なしで動いているのに、今の政府方針は明確な「原発回帰」だ。「全ての原発を再稼働させる。だから自然エネはあまり導入できない」「電源ミックスで2030年に原発発電比率を20%以上にする。だから新規の原発建設も必要」など、事故直後には思いもよらなかったスピードで事故前の政策に戻ろうとしている。原発回帰は今回の仮処分決定があってもビクともしない。 ・・・続きを読む
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筆者

竹内敬二

竹内敬二(たけうち・けいじ) エネルギー戦略研究所シニアフェロー

エネルギー戦略研究所(株)シニアフェロー。元朝日新聞編集委員。科学部記者、ロンドン特派員、論説委員などを務め、環境・原子力・自然エネルギー政策、電力制度などを担当してきた。温暖化の国際交渉、チェルノブイリ原発事故、3・11などを継続的に取材。著書は、電力業界が日本社会を支配するような社会産業構造がなぜ生まれたのか、なぜ福島事故がおきたのかを描いた『電力の社会史 何が東京電力を生んだのか』(朝日選書、2013年)。

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