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「脱化石燃料」は現実味を帯びるか

盛り上がるダイベストメント運動に一抹の危惧

江守正多 国立環境研究所 地球環境研究センター副センター長

 数年前から、アメリカやヨーロッパなどで、ダイベストメントとよばれる「脱化石燃料」の市民運動が、盛り上がっている。ダイベストメント(divestment)とは、インベストメント(investment)の逆で、投資の引き揚げを意味する。大学の寄付金、年金、慈善団体等の基金の運用のための投資先から、化石燃料企業を外すことを求める運動である。

 動機となるのは、気候変動(地球温暖化)問題だ。今年は年末にパリで行われる国連気候変動枠組条約のCOP21で、2020年以降の国際枠組が決まる重要な年である。

 これまでの国際交渉において、世界平均気温の上昇を産業革命前を基準に2℃未満に抑える目標が掲げられている。この目標を達成するには、人類がこれから将来にわたって排出する二酸化炭素(CO2)の総量を、過去から現在までに排出してきた総量と比べて、半分程度に抑える必要がある。しかし、現在確認されている経済的に採掘可能な化石燃料をすべて燃やすと、優にこの制限を超える二酸化炭素を排出してしまう。

 つまり、「危険な」気候変動を避けるために、人類は化石燃料の使用をどこかで、(早ければ今後数十年で)やめなければならない。しかもその時点で、現在確認されている化石燃料はたくさん余るのだ。したがって、今なお新しい資源を探査しているような化石燃料企業への投資はナンセンスであり、道義的にも問題がある上に、投資リスクも大きい、というのが理屈だ。

 これまでに約500億ドルの投資が、この運動によって化石燃料企業から引き揚げられたと推定されている。引き揚げを行ったのはアメリカを中心とする30を超える大学の基金、40を超える都市の年金基金等、宗教組織や慈善団体等の基金などで、目を引くところではロックフェラー兄弟財団やスタンフォード大学(ただし石炭のみ)が含まれる。

ダイベストメント米ハーバード大では、学生らが学長室のある建物(中央)を封鎖するデモに集まった=昨年4月、米マサチューセッツ州ケンブリッジ、学生組織「ハーバードも投資撤収を」提供
 一方、運動のターゲットになりながらもダイベスト(divest)していない団体には、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やハーバード大学が含まれる。ハーバード大学では、ダイベストを要求する学生たちと大学当局の対立が続いており、ちょっとした学園紛争の様相を呈している
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