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DARPA流イノベーションの起こし方

災害救援ロボットの可能性が見えてきた

鎌田富久 TomyK Ltd.代表

拡大写真1、カリフォルニア州のポマナで開催

 DARPA(米国防高等研究計画局)が主催する災害救援ロボットのコンテストDRC (DARPA Robotics Challenge) Finals(決勝)が、6月5日〜6日の2日間カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のポモナにあるFairplex競技場で開催された(写真1、 2)。1年半前のDRC Trials(予選)では、東大発ロボットベンチャーSCHAFT(2013年11月に米Googleが買収)が1位になって話題となった。

 世界中から24チームが参加し(今回SCHAFTは出場辞退)、韓国科学技術院のチームKAISTが優勝して、賞金200万米ドルを手にした。日本勢が活躍できなかったのは残念だが、本大会が契機となってロボットの研究開発が世界的に加速した。DRCは、災害救援ロボットの産業化への道筋を付けることに成功したと言えよう。また、実用化に向けての課題と可能性も見えてきた。

拡大写真2、ロボットに声援を送る観客

実際の災害現場を想定した課題設定

 予選(DRC Trials)の競技は、8つのタスク(種目)を個別にそれぞれ30分以内にこなすことであった。また、転倒に備えて、吊り下げの支えも許された。それでも、各ロボットは各タスクをなかなか完遂することができなかった。今回の決勝では、1時間以内に、連続して8タスクをこなすというものだ(写真3)。支えもない。(転倒して助けを借りて再開する場合には、10分のペナルティー。)ロボットが見えない地点にあるコックピットから無線通信で命令を発信する。

 しかし、1つ1つのタスクそのものは、予選のときに経験しているので、そのタスクに応じたロボット制御はさらに練習を積んで、調整を重ねてきた感じだ。加えて、1つ日替わりのSpecial Taskが用意されており、臨機応変に対応できる能力も試された。予めプログラムした通りにとはいかない。予選を知るものからすると少々高い目標設定かと思ったが、簡単過ぎず、不可能というレベルでもない、良いターゲットとなっていた。

拡大写真3、決勝の競技の内容

 一番難しかったのは、車から自力で降りるタスクだ(写真4)。車を運転する体勢から、地面に降りる一連の動作は、バランスを保ちつつ多数の関節を動かす必要がある。ガレキ(ブロック)の乗り越えも、繊細な制御が要求される(写真5)。二足歩行で斜めのブロックにもうまく着地してバランスを保つ必要がある。

 1日目はまだ慣れていないせいかロボットの転倒が多かった。よく見ると競技場の地面が少し傾いていて(水はけのため?)、微妙なバランスのズレがあったのかもしれない。こうした現地での調整能力も必要なノウハウである。

拡大写真4、車から自力で降りるロボット
拡大写真5、ガレキブロックを乗り越える

韓国のチームKAISTが優勝

1時間以内に8タスクすべてを完了した(8点満点)チームが3つ出た。7点獲得したチームも、4つあり、高レベルな戦いになった。優勝したのは、最も早いタイムで8タスクをこなしたチームKAISTで、韓国製ロボットHuboのまとまりの良さを示した(写真6)。

 上位の成績は以下の通りである。()内は使用ロボット。
1位 8点 44:28 KAIST (Hubo)
2位 8点 50:26 IHMC Robotics (Atlas)
3位 8点 55:15 Tartan Rescue (CHIMP)
4位 7点 34:00 Nimbro Rescue (Momaro)
5位 7点 47:59 Robosimian (RoboSimian)
6位 7点 50:25 MIT (Atlas)
7位 7点 56:06 WPI-CMU (Atlas)
8位 6点 57:41 DRC-HUBO (Hubo)
9位 5点 49:00 Trac Labs (Atlas)
10位 5点 52:30 AIST-NEDO (HRP2+)

拡大写真6、優勝に歓喜する韓国のチームKAIST

 日本からは5チームがエントリーして、1チームが直前に辞退となり、最高位はチームAIST-NEDO(産業技術総合研究所)の10位であった。予選に参加していなかったこともあり、準備不足の感は否めない。

 参加チームは、独自ロボットを使うチームと、DARPAと米Boston Dynamics社が開発したヒューマノイド・ロボットAtlas(写真7)を使うチームに分かれる。Atlas陣営は、それぞれのチームが制御ソフトウェアを改良して、上位に多数入っている。

拡大写真7、進化したヒューマノイド Atlas

 優勝した韓国製ロボットHuboをはじめ、独自ロボットの活躍にも目を見張るものがあった。カーネギーメロン大学のCHIMP(写真8)は、Human-likeではあるが、二足歩行を追求せず、車輪ベルトで移動できる。Huboも近い発想だ。四足ロボットRoboSimian (写真9)も、四足の巧みな制御でドアの開閉、バルブ、ドリルをこなしていた。階段だけがうまくこなせなかったが、類人猿が自然界で長く生きながらえたスタイルで、理にかなっていると言えそうだ。

今後に向けた課題と可能性

 前回(Trials)と今回(Finals)の様子を見て、この1年ほどで随分と各チームが制御ソフトウェアや運用ノウハウを進化させたと感じた。事前にタスクの内容が決まっていたとはいえ、自律制御と遠隔コントロールで、ある程度の救援活動はこなせるようになりそうだ、という可能性を感じた。もちろん、課題はまだまだ多い。こなせるタスクの種類も増やす必要があるし、安定性は非常に重要だ。今回は1時間という設定であったが、災害現場ではもっと長くバッテリーを持たせることが望まれる。

拡大写真8、Tartan RescueのCHIMP

 近い将来の実用化を考えると、ヒューマノイドにこだわる必要はない。今回安定して力を発揮したHubo, CHIMPやRoboSimianは参考になりそうだ。ガレキを乗り越えて人の存在を確認するなど、ある程度目的を限定すれば、実用化はしやすくなる。災害現場で、無線通信環境を整える手段は別に用意するとして、ロボットはむしろ無線通信を前提にして、精細な画像情報を送り、遠隔操作の精度を上げるというアプローチは現実的かもしれない。いずれにしても、毎年各地で起こる自然災害の対策として、早期の実用化を期待したい。

拡大写真9、四足ロボット RoboSimian

 長期的な課題となると、そもそも予測できない課題に対してロボットはうまく対応できるのか、という問題がある。これはある意味、人工知能がかかえる課題と同じで、ロボットの場合、ハードウェアを制御する分さらに難しい。現状ロボットの制御ソフトウェアは、いわばタスクに応じたプログラム群であり、開発者がソフトウェアを開発している。世の中のすべてのタスクをあらかじめ記述するのは不可能であり、人工知能で言うところの「フレーム問題」的な壁がある。これを人間のように自ら学習するようにするには、一段ブレイクスルーが必要だ。この段階で、人間の動作を教師データ(学習に用いるデータ)にするならば、ロボットも人間の振る舞いと近いヒューマノイドにする方が都合が良いかもしれない。まだまだ研究開発が必要な領域だ。

DARPA流イノベーションの起こし方

 今回もDARPAのイノベーションの方向づけは世界にインパクトを与えた。DRCプロジェクトがスタートした2012年から3年経ってみると、世界中でロボットの開発・産業化が注目されるようになった。ロボット領域へのベンチャー投資も加速している。

 2004年に開催された車の自動走行のコンテストDARPA Grand Challengeも、当時は実用化を疑問視する声もあったが、10年経過して、現在では世界中で多くの企業が参入し、実用化が進みつつある。ロボットの場合も、今後着実に進みそうな状況だ。

・DARPAプロジェクトはイノベーション特区
DARPAプロジェクトは軍事予算ということで、イノベーション特区のようなものになっている。自動走行やロボットといった先端技術は、社会的認知や新たな法整備なども必要になるイノベーションである。一国が独占するようなものではなく、世界で育てていくべきテーマだ。それをまずDARPAプロジェクトで実用化の可能性を示し、民間に産業化を促す。米国企業が産業化で先行できれば、大きなメリットがある。世界中から参加者を巻き込んでスタートする意味もある。

・卓越したプログラムマネージャ
これだけ大きなプロジェクトをリードして成功させるのは大変な仕事だ。その責任者は、プログラムマネージャと呼ばれる。予算を持ち、必要な人材を集め、目標設定を行い、世界中のトップ研究者に参加を呼びかける。大きな権限と責任がある。DRCのプログラムマネージャGill Pratt博士は、元MIT准教授、自身一流のロボット研究者であり、リーダーシップを発揮して、すばらしいマネージメントをしていた。プログラムマネージャとは、一流大学から移籍するほど、魅力的でかつチャレンジしがいのあるポジションなのだ。

 現在のインターネットの技術ももともとはDARPAが開発したものだ。実は、筆者が共同創業したソフトウェアのベンチャーACCESSで、1980年代に組み込み向けのTCP/IPソフトウェアを開発したときに、米国からDARPAのインターネットプロトコル仕様書を取り寄せて、それをベースに開発した。当時から随分とオープンな考え方だと感心したが、世界に広めることが自身のメリットになるという発想は、一貫しているように思える。日本からもDARPAプロジェクトに積極的に協力して、むしろしたたかに利用させてもらう発想もありではないか。DARPA流のイノベーションの起こし方、参考になるべき点は取り込んで、ぜひ日本発のイノベーションも起こして行きたいものである。


筆者

鎌田富久

鎌田富久(かまだ とみひさ) TomyK Ltd.代表

TomyK Ltd.代表。株式会社ACCESS共同創業者(前CEO)。東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。東京大学在学中の1984年に荒川亨氏とともにACCESSを設立し、2001年に株式公開、モバイルインターネットの技術革新を牽引した。2011年に退任。スタートアップを支援するTomyKを設立し、東大発ロボットベンチャーSCHAFT(米Googleが買収)の起業を支援。現在、テクノロジーベンチャー約10社を立ち上げ中。