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続・経済が「脱炭素」を求めている

COP21に向け、温暖化交渉の新しい鼓動

西村六善 日本国際問題研究所客員研究員、元外務省欧亜局長

 ビジネス界自身が炭素価格の必要を感じている。オランド仏大統領は「炭素価格は、政府がビジネスに送る最も明白なシグナルだ」と論じ、フィゲレス・国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局長は「現在40件ある炭素市場を連結することは可能だ」と述べた。

 さらにもっと驚くべきことが、最近起きた。欧州の有名石油ガス会社6社の社長が、連名でCOP21の議長であるフランスのファビウス外相とフィゲレス事務局長に書簡を送り、意味ある炭素価格の設定を要求したのだ。

 彼らは、2℃実現を視野に入れて行動すると述べ、そのためには意味のある炭素価格が必要だと述べている。事態はここまで来たのかという感がある。今回は欧州の会社が主体だが、炭素価格という点では、エクソン・モービル社も支持派だ。

 エクソンの創業家のロックフェラー家は、2008年ごろから同社のティラーマン社長に対し、温暖化の深刻さに鑑み、化石燃料主体の事業形態を変えろと強く要求してきた。当初は頑強に拒絶してきた同社長も、最近は少しづつ譲歩して、今日では炭素税を受け容れるところまで来ている。

 元来、炭素市場でCO2の排出に値段をつけると、人々は高価になった炭素製品を使わないで再エネに移行し、企業は効率化投資を強化するので、費用効果的に温暖化を抑える最良の手段とされてきた。

 世銀が全世界的に旗振りをしているほか、非常に多くの研究所や専門家集団が炭素価格の設定を要求している。国際通貨基金(IMF)、経済協力開発機構(OECD)等の国際機関は、以前から炭素価格設定論者であった。

 しかし、欧州の排出量取引市場(EUETS)の例でも明らかな通り、各国ごとの炭素市場は、制度設計が恣意的になり、市場のていをなしていない。しかも競争上の危険があるので、非効率だということになっていて、その連結(linking) が課題になっている。

 最近、世界ビジネスはそういう現状を踏まえ、政府に対して有効な国際的炭素価格の設定を要求しているということだ。

 「脱炭素」という用語は、ドイツでのG7サミットの後、すぐに常用語になった。

 6月15日ロンドンで発表された国際エネルギー機関(IEA)のこうかんな分析では、脱炭素化には、現状の国別削減誓約では不十分とした上で、2℃を実現する強力な政策に繋ぐ橋渡しとして、まず2020年に全球のCO2排出をピークにもっていくことを提案している。

 「ブリッジ・シナリオ」と称されるこの提案は、以下の5項目を提示し、これらを実行することで、2020年にピークにもっていくことが可能であり、しかもそれは現状の技術で且つ成長を阻害しないで出来ると論じている。

 5項目は、①省エネと効率の強化、②非効率石炭火力の廃止、③再エネへの投資拡大、④補助金の廃止、⑤随伴メタンの処理である。

 このうち、石炭に関してはエネルギー効率が、最低水準の石炭火力発電所は早急に廃止されなければならないが、現在の最高効率のものでも問題なしとしないとしている。

 現状での最高効率の火力発電でも、2℃に到達する脱炭素の域に達しないと論じている。

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