金縛りの日本は「フランスよ、お前もか?」とつぶやくのか?
2015年07月16日
2015年4月4日、ルモンド紙は、フランスが2050年の電力需要の100%を、再生可能エネルギーでまかなうことが出来るという政府機関の研究を報道した。フランスの環境エネルギー管理庁(ADEME: エコロジー持続成長エネルギー省と高等教育・研究省の共同所管の下にある行政機関。英語訳はFrench Environment and Energy Management Agency)がまとめたものだ。
この研究結果は、公表される予定であったが直前になって異論が出たため、メディアにリークされたとされている。監督官庁のエコロジー持続成長エネルギー省のセゴレーヌ・ロワイヤル大臣は、「自分の役所がADEMEに対してこの種の研究を依頼したとしても驚かない」と言明している処からするとフランス政府の研究であったことは確かだろう。なお、研究は原文は、このサイトで閲覧できる。
この研究は、最高水準の技術評価能力を駆使して分析したと述べている。フランスの地方の行政区画ごとにエネルギーの現状を詳細に調べ上げ、再エネのポテンシャルを積み上げるという手法を取っている。また、フランスの人口は、2050年までに600万人増加すると想定し、デマンド・マネージメント等の施策によって現状より14%の省エネを実現し、その結果、2050年の電力需要は422TWhになるとしている。しかし驚くべきことに、100%再エネ化するとその3倍に当たる1268TWhを発電できると論じている。 内訳は洋上風力63%、太陽光17%、水力13%、地熱7%だ。この結果、フランスは系統管理上も問題が無く、熱や運輸の面で電力をふんだんに使えると報道は伝えている。
しかし、最も重要な点はコスト分析だ。100%再エネ化シナリオでは、2050年時点での消費者の料金負担は現状よりも30%増えるが、これは原発50%を2050年まで維持する現行のシナリオのコストと同額だと論じている。要するに100%再エネで行けば電力は有り余るほど手に入り、しかも原発維持の場合と同じコストだというハナシだ。フランス人の損得勘定に、間違いなく訴求力を持つハナシだ。
オランド大統領が就任後、フランス政府は「グリーン成長のためのエネルギー移行法」を議会に提出した。これによればフランスは2050年において原発を50%まで維持し、再エネを40%、化石燃料を10%としている。世間的には原発一本槍と思われてきたフランスが、原発を現行の75%から50%まで引き下げると同時に、再エネを現行の12%から40%まで持って行こうとしている。この積極さには驚かされるが、法律の名称自体が「グリーン成長のためのエネルギー移行法」だから当然だろう。しかし、それを100%まで持って行くというビジョンを政府機関が掲げ、国内に議論を喚起する挙に出たことは、かなり注目すべきだ。
もとより、フランスの原発志向もビジョンに基づいていた。最初に原子力研究所を作ったド・ゴール将軍にとっては、大国フランスの地位が関係していた。また原発推進が本格化する1960年代、アルジェリアの独立によって、サハラ砂漠の石油と天然ガスに頼れなくなった事情等がある。しかし、周知のとおり、今日、フランスの原発推進政策は困難と危機に逢着している。多くの議論が行われているが、NYTは最近詳しい記事を書いた。
その上さらに、今日、世界のエネルギーは、地殻変動を起こしている。再エネは安価になり技術イノベーションの起爆源になった。世界はこれを第四次産業革命と見ている。その中でフランスが新しいビジョンを再エネに見出そうとしたとしても、全く自然な流れだ。この文書がリークされた10日後、環境エネルギー庁主催の専門家のセミナーが開催され、再エネが地域開発や雇用の増進にも波及効果がある点などが強調された。サイトでは、再エネ導入の技術的可能性などを詳しく論ずるスライド等が掲載されている。
フランスの例を引くまでもなく、世界は今や「ネット・ゼロ」や「脱炭素」を指向している。これは決して誇張ではない。世界の議論を知れば
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