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イラン核合意の宇宙技術の視点から見た大きな意義

イスラム圏最先進国の科学技術の平和的発展を支えよう

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 イラン核開発に関するイランと核クラブ6ヶ国との仮合意にようやく至った。核問題自体が、過去30年の米国―イラン間の確執によって引き起こされたことから、多くの政治的感想があるだろうが、ここでは科学技術の視点から今回の合意を論じたい。

 余り知られていないことだが、イランは2009年に完全国産ロケットによる人工衛星を打ち上げに成功した『宇宙クラブ』のメンバーである。その意味ではイスラム圏随一の科学技術力を誇る国だ。

宇宙クラブと核クラブ

 宇宙クラブのメンバーであることは、核技術(純国産で原子力発電する技術や核兵器を作る技術)の所有と共に科学技術大国の象徴・国力の象徴とみなされている。理由は3つある。

 第1に、これらは大型インフラと広大な敷地を必要とする。この点は、輸出の稼ぎ頭としてもてはやされる電機産業や自動産業とは性質が異なる。というのも、後者は製品の値段さえ下げれば、比較的小型のインフラと基礎的な技術力で、比較的短期間のうちに生産開始が可能だからだ。この関係は19世紀後半の製鉄業と製糸業との関係に近い。

 第2に、稼動に必要な最低水準の技術が高い。つまり大型予算と人的資源を10年単位の長期間に渡って投入しないと、稼動に至らない。それが(北朝鮮のように)国民生活の水準を落とさずに遂行できれば、まさに大国の証だろう。

 第3に、両者とも人類が最も恐れる核弾頭に不可欠な技術のため、他国からの技術導入が難しく、自力開発に頼るしかない。逆に言えば、人材という視点から科学技術力・高等教育の充実を測る指標となる。

 このような理由で、宇宙クラブと核クラブだけが「クラブ」と呼ばれる。一方で、技術競争の激しい電機産業や、貿易でドル箱になりうる自動車産業は、たとい純国産で作れる技術力があっても「パソコンクラブ」とか「自動車クラブ」とか呼ばれることはない。だからこそ、先進国に追いつこうとする国、特に先進国からの援助の弱い国は、実力を示すために宇宙クラブ入りや核クラブ入りを目指す。

韓国は2013年1月30日に打ち上げ成功したが、一段目がロシア製なので、未だに宇宙クラブではない。人口(億)は2013年7月の国連統計。

 宇宙クラブと核クラブのメンバーは似通っている(表)。安保理常任理事5カ国とインド、イスラエル、北朝鮮が両者に名を連ね、核クラブの中で宇宙クラブに入っていないのはパキスタンだけだ。宇宙クラブの中で核クラブに入っていないのは日本、ウクライナ、イランだけだが、原子力発電所を純国産で建造してきた国を核クラブ員とみなせばイランだけが核技術を保有していないのである。

 つまり、イランは「核を持たないけれど、人工衛星は打ち上げられる」国といえる。それは宇宙科学者にとっては有り難い国だ。というのも、軍事的な実験に使われないうちは、日本のように平和利用を通じて衛星制御などの技術獲得がすすめられるからだ。実用衛星は失敗した場合の損失が大きいので、始めのうちは失敗しても科学者だけが困る科学衛星を使って技術を高めるのが一番現実的だ。つまり科学衛星打ち上げにつながるのである。

宇宙新興国の国際貢献の可能性

 現に、数年前には、私の勤めるスウェーデンの研究所にイランから「科学衛星を打ち上げたいので観測装置を載せてくれないか」という非公式の打診があった。人工衛星は、

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