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サカナを守る漁業への転換を

朝日地球環境フォーラムで明らかになった日本の時代遅れぶり

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 朝日地球環境フォーラムの分科会「漁業国日本の凋落とサカナの危機、海をどう守る?」(10月2日、帝国ホテル)は、サカナが獲れなくなった日本の漁業の惨憺たる現状とともに、ところがそれは世界の中で日本だけの特殊な状況であるという2点が明快に伝わってくるものだった。とくにノルウェーの漁業の近年史を振り返った北田桃子・世界海事大学助教授の報告は、日本が苦境を脱するための方向を指し示し、参加者に強い印象を与えた。

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 日本の漁業の凋落ぶりは、小松正之東京財団上席研究員がプレゼンテーションで示した上の二つのグラフを見れば一目瞭然だろう。日本の漁業生産量は減る一方である。そして、主要漁業国の1977年と2013年の漁業生産量を比べてみると、減っているのは日本だけなのである。

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 築地魚河岸のマグロ仲卸「鈴与」三代目の生田與克さんは、「最近、築地で挨拶代わりに交わされるのが『いいサカナがいなくなった』という言葉」と、肌感覚でサカナの危機を訴えた。そのもっとも大きな原因は「獲り過ぎ」と言われる。

 ノルウェーでも漁獲量が急減した時期があったが、その後、「獲り放題に獲る」方式から法規制をかけて「獲っていい量の範囲内で獲る」方式に転換すると、漁業は「儲かる産業」に変わった。それを端的に示すのが、北田さんが示した2枚のグラフだ。漁民の数は減ってきたが、それに応じて一人あたりの漁獲高が増え、実収入がぐんぐん伸びた。

拡大1人当たりの漁獲高の推移(1945-2011)
拡大漁業従事者の平均収入と魚の販売価格の推移(1970-2010)

 ノルウェー政府の基本方針ははっきりしている。持続可能な漁業とするために、「サカナの健康」「サカナの福祉」「食品の安全」を考えた漁獲高の法的規制をする、というものだ。規制をするというと、日本ではとかく当事者から反発が出るものだが、北欧では「規制は弱い立場の人を助けるもの」と受け止められているのだという。

 漁船数とエンジン出力の推移を見ると、小さな漁船を廃船にして大きな船に切り替えていったことがわかる。小さな漁船が淘汰されたのだから弱いものいじめではないかと思うかもしれないが、一人一人の漁民についてみれば漁業を続けた人たちの収入は上がり、政府の補助金が不要になっていった。零細漁業から儲かる漁業に変わり、補助金などもらわずにやっていけるようになったのである。

拡大漁船数とエンジン出力総計の推移(1990-2011)
拡大政府補助金額の推移(1980-2011)

 こうした改革が可能になったのは、ノルウェー人が「科学的研究」と「自然」に敬意を持つから、という北田さんの指摘には考え込んでしまった。日本人もかつては自然に敬意を持っていたはずだが、今はどうなのだろうか。科学的研究に対しては、敬して遠ざける人が多いのではないか。そもそも、日本の科学者自身、果たしてどれだけ自然に敬意を持っているのか。

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 象徴的だったのが、平将明・内閣府副大臣が ・・・続きを読む
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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『重力波 発見!』『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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