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米国スター教授が起こしたセクハラ問題の衝撃

学生の訴えを無視した大学の無自覚さと、学術界の構造的問題

須藤靖  東京大学教授(宇宙物理学)

 今年も日本から2人のノーベル賞受賞者が発表されて嬉しく思っていた矢先、アメリカの友人からとても嫌なニュースが流れてきた。カリフォルニア大学バークレー校(UCB)のジェフ・マーシー教授が、セクシャルハラスメントで処分されたというのである。マーシー氏は、太陽系外惑星の研究者として世界的に著名であり、仮にノーベル物理学賞がこの分野に授与されるとしたら、3人のうちの1人に入ることは確実だと言われていた 。そのため、今回の問題はとりわけ天文学者たちに大きな衝撃を与えている。

拡大ジェフリー・マーシー米国カリフォルニア大学バークレー校教授=2007年、NASA提供

 10月10日付のニューヨークタイムズ電子版の記事 を中心に、他のインターネットサイトから得られた情報を加えて今回の経緯を要約しておこう。

1) 2015年6月、大学(UCB)はマーシー氏が学生に不適切な行為を行っていたと結論し、今後、同様の行為が繰り返された場合は、停職あるいは解雇の可能性があると本人に伝えた。

2) 個人のプライバシーに関わる問題なので、この事実は一部の関係者以外、同僚にも知らされないままだった。まず、米国のインターネットニュースBuzzfeedがこの事実をすっぱ抜き 、マーシー氏は米国天文学会の「天文学における女性の地位に関する委員会」(Committee on the Status of Women in Astronomy; CSWA)に公式の謝罪文を10月7日に提出した。

3) その内容は、今回の訴えの内容には同意しないものの自分の不適切な行為が女子学生に不愉快な思いをさせたとことは自分の責任であり心より謝罪する、意図的ではなかったにせよその人々を不快にさせた原因が自分にあると思うときの苦痛さは表現しきれないほどだ、この件に関する長時間の真剣な協議を通じて自分の行為を反省しすでに正しい方向へ自分は変わった、といったものである。この謝罪文が受理されるかどうかはCSWAが検討中である。

4) 2014年3月に、元学生の4人が大学に正式に訴えを起こした。その4人ではないが、現在カリフォリニア大学サンタバーバラ校助教授のルース・ミューレイクレイ氏は、UCBの大学院生であった2004年12月、女子学生からの訴えを代表してマーシー氏に伝え、面談した。彼はその意見に感謝の意を伝える電子メールをくれたものの、翌年には女子学生から再び同じ訴えがあったため、彼女は、2005年9月に学科主任に相談に行く。しかし驚くべきことにその学科長は、匿名の訴えには対応できないと返答。さらにその次の年に別の女子学生からの訴えを受け取った彼女は、数人の女子学生と博士研究員とともに大学本部へ訴えに出る。しかしながら、本人ではなく他人が代理に訴えることは認められないと拒否されたという。

5) 現在ハーバード大学天文学教室教授であるジョン・ジョンソン氏は、2000年から2007年までマーシー氏の大学院生であった。彼は、学生となってしばらくして、マーシー氏の不適切な行為を目にしたり、噂を聞いたりするようになった。噂どころではなく、UCB天文教室では女子学生の間で、マーシー氏の研究室の学生になってはいけないという忠告が上の学年から下の学年へ申し送られていたという。

 一部の系外惑星研究者の間では、いわば公然の秘密となっていたにもかかわらず、ジョンソン氏はそれに関与することを意図的に避けたことを率直に認めている 。また、彼が学位取得後、研究者としてステップアップする際には、マーシー氏の推薦書は大きくプラスに働いたとも述べている。2013年、ジョンソン氏はハーバード大学で終身雇用権を得た。この時点でやっと、この問題に対して何か行動を起こす責任があると考える余裕ができたという。

6) 2013年から3年間CSWA委員となったジョンソン氏は、他の委員とともにCSWAのブログ「天文学における女性」に、「セクハラにうんざり:常習犯の戦略」という記事 (2014年5月14日付)を投稿する。これは名指しは避けたものの、天文学で有名なセクハラ常習犯たちが行為をエスカレートさせる典型的手口をステップ1から13まで紹介したものだと書かれていたが、今回の騒動が明らかになった後、ジョンソン氏は、この記事は複数の女子学生から聞いたマーシー氏のやり口だけをまとめたものだったと公表している。

7) 以上の経緯が明らかにされると、UCBの下した処分の甘さに批判が巻き起こった。現在、マーシー氏は即時解雇されるべきであるとする署名や、UCB天文学教室の研究職への応募ボイコットなどが呼びかけられている。UCB天文学教室の教員もUCB本部宛にマーシー氏の解雇を求める共同文書を提出した。

 実は、私は共同研究でマーシー氏の観測データを利用したことがあり、5本の共著論文がある(ただし、会議の際、及び電子メールで議論したことがあるだけで、個人的な知り合いというわけではない)。それだけに今回のニュースには一層驚かされた。そして ・・・続きを読む
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筆者

須藤靖

須藤靖(すとう・やすし)  東京大学教授(宇宙物理学)

東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。1958年高知県安芸市生まれ。第22期・第23期日本学術会議会員。主な研究分野は観測的宇宙論と太陽系外惑星。著書に『ものの大きさ』、『解析力学・量子論』、『人生一般二相対論』(いずれも東京大学出版会)、『一般相対論入門』(日本評論社)、『三日月とクロワッサン』、『主役はダーク』『宇宙人の見る地球』(いずれも毎日新聞社)などがある。

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