メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

明治以降、草食化が進んだ北海道のヒグマ!

人間活動の影響で、豊富にいた魚や獣から遠ざけられていった……

米山正寛 森林文化協会事務局長補佐

知床半島で、サケをとらえたヒグマ拡大知床半島で、サケをとらえたヒグマ
 秋を迎えて、ヒグマが北海道の川でサケやマスを捕らえる写真が報道される季節となった。撮影地として選ばれるのは知床半島だ。世界自然遺産として豊かな生態系が残されている土地柄であり、それを象徴的に表現する素材として被写体に選ばれているのだろう。ところが、そんな知床でさえ、クマが食べる餌に占めるこうした魚の割合はわずかであり、しかも明治時代の開拓以降に起こった変化により、急激に北海道のヒグマの草食化が進んだであろうことが、最近の北海道大学や京都大学、総合地球環境学研究所(地球研)などの研究で明らかになりつつある。

知床のクマもサケをあまり食べていない

 サケが、産卵期の秋に川を遡上することは、海で取り入れた窒素やリンなどの栄養分を陸域へ運ぶことにつながる。ヒグマがサケを捕らえて森に運んだり糞をしたりすれば、さらに内陸へとその栄養分が運ばれる。今世紀になって、そんな関係が研究の上でも話題にのぼるようになった(例えば、2002年10月19日付朝日新聞夕刊=東京本社版)。こうした成果が得られるようになったのは、窒素や炭素などの安定同位体分析から、動物の個体が死亡するまでの数年から一生の間に、草本類や果実類、農作物、陸上動物、さらに魚類など、どんなものを食べていたのかという傾向をつかむことができるためだ。

 地球研の松林順・研究推進支援員は、北大在学中に森本淳子・准教授らと、北海道のヒグマがどのくらいサケを食べているのかを調べるため、北海道立総合研究機構環境科学研究センターの協力を得て、道内では最もサケを利用しやすい知床半島で1990年代以降に捕獲されたヒグマ191体分の骨を対象に、たんぱく質のコラーゲンを抽出して安定同位体分析を実施した。その結果、個体による変動はあるものの、ヒグマ個体群全体における餌としてのサケの利用割合は、平均して5%ほどと推定された。北米などの先行研究では30%以上の値を示す個体群が多く、それに比べると、サケに恵まれている印象の知床とは言え、ヒグマの餌に占める寄与はかなり低いことが示された。また、道内の他地域で捕獲されたヒグマでは、数%に満たないケースがほとんどだった。北海道でクマがサケを食べるのは、ごくわずかに見られる光景であることが改めて浮き彫りになった。

肉や魚を、昔はもっと食べていた

 北海道のヒグマが植物中心の食生活を送っていることは、従来からの研究で指摘されていた。アキタブキやオオハナウド、エゾイラクサなどの植物体のほか、ミズナラなどのどんぐり、ヤマブドウなどの果実が主な食べ物だ。もちろん雑食性なので、ほかにエゾシカなどの哺乳類、サケ・マスといった魚類、昆虫類も食べる。しかし、このようにサケの利用度が低いのは、海外の研究例と大きく異なるため、北海道における昔からの特徴的な姿なのかどうか、松林さんらに新たな疑問が湧いた。そこで遺跡の発掘などで集められた古いヒグマの骨を、千歳市埋蔵文化財センターや釧路市博物館など多数の機関から提供してもらい、縄文時代までさかのぼって分析してみた。

 すると、道南地域のヒグマでは開拓開始(1890年)以降に陸上動物(エゾシカや昆虫)の利用割合が ・・・続きを読む
(残り:約1176文字/本文:約2497文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

米山正寛

米山正寛(よねやま・まさひろ) 森林文化協会事務局長補佐

公益財団法人・森林文化協会事務局長補佐(学術、出版)兼「グリーン・パワー」編集長。朝日新聞の科学記者を経て現職。とくに自然史科学と農林水産技術に関心を寄せ、取材活動を重ねてきた。森林文化協会は、「山と木と人の共生」を基本理念として1978年に設立された朝日新聞創刊100周年記念の財団。
森林文化協会公式サイト

米山正寛の新着記事

もっと見る