日本は、世界となぜこんなにずれているのか?
2015年12月21日
今回のパリのCOPは、196カ国が化石燃料文明の終わりを目指すという決定をした点で、歴史的で画期的な会議であった。
世界は明らかに歴史的な「エネルギー革命」に入る宣言をした。これが世界中の政治指導者と温暖化問題に取り組んできたすべての人々のコンセンサスだ。しかし日本ではそう捉えられていない。パリ協定への否定的空気は、12月13日に発表になった総理談話によく表れている。 2度とか1.5度のこと、ネット・ゼロのこと、2050年までの低炭素長期削減戦略のことなど、すべての重要事項にはまったく言及がない。世界は化石燃料をやめることになった、という重大な告知も行われていない。ましてや化石燃料に代替するクリーン・エネルギーで新しい日本の成長物語を作っていこうという呼びかけもない。
恐らくサウジアラビア以外にこのような態度をとっている国はないだろう。日頃から先進国社会と価値観を共有しているはずのこの国。 平和維持と人類福祉のために世界と連帯していこうとするこの国。 現代文明の先端的一員である日本という国。そういう国のリーダーの談話としては強い違和感を感ずる。また、これは再生可能エネルギーで日本経済を持続成長させたい、と願っている多くの産業界の人々をガッカリさせる扱いだ。
日本の産業界・経済界は、エネルギー革命の到来を迎えてインド、中国、欧米その他、あらゆる所で、巨大で永続的な新エネルギー需要を取り込もうとして商機をにらみ、現に大きな契約を実現している。だがその一方で、その経済界を代弁するとされる諸方面は、この協定を否定的に捉えている。この落差は一体なにか? 否定論はどうやら、エネルギー革命などどこにもない。2度など出来るはずがないし、やればコストがかかり過ぎて生活水準が下がる。一体それでいいのか?という意見だ。「脱炭素」などという概念自体を冷笑する傾向も一部にある。
しかし、そのような思想は今や世界の主流ではない。脱炭素は経済成長を犠牲にしないで実現できると多くの専門家は論じている。その文献は膨大だ。例えば日本経済研究センターは「温暖化対策と経済成長は両立する」と結論づけている(小林光・慶応義塾大学特任教授、鈴木達治郎・長崎大学教授の2015年5月8日付日本経済新聞)。
外国の文献では、例えばDDPPだ。これは日本を含むトップ16の排出国のエネルギー経済の実態を専門家グループで詳細に分析した結果、どの国でも経済成長と人口増大を勘案しても、2度実現への削減は既存技術で可能だと結論づけている。
事実もモノを言っている。世界の温室効果ガス(GHG)の排出削減は、成長を阻害しなくなった。 2015年3月、国際エネルギー機関(IEA)は、2014年の全球エネルギー起源の二酸化炭素(CO₂)排出量が増加を停止したと発表した。 2014年の世界経済は3%の成長を遂げているので、初めて成長を犠牲にしないでCO₂削減が出来る(デカップリング)ようになった。更に、最近英国のイースト・アングリア大学は、2015年もエネルギー起源CO₂は前年並みだろうとする研究を発表した。
IEAの最新報告では、中国は成長しているが石炭の消費はピークを過ぎたと分析している。中国も成長への命綱ともいうべき石炭を減らしているが、成長を犠牲にしているという議論はない。
The Telegraph紙(英国の保守系新聞)は、中国は再エネ技術で世界トップに立つことを国家目標にしているから、パリ協定の最大の擁護者になると論じている。この記事は、中国が石炭を必死で減らそうとしていることを指摘している。中国も相当の成長を維持しながら、石炭を減らし、再エネ大国化を目指しているということだ。
ネット・ゼロなどに向かうことが、経済活動や生活水準の抑制につながるという議論は、世界的には主流ではない。日本の一部で、温暖化防止は国民生活の停滞を招くという言説が行われているが、省エネなどの国民の創意工夫、賢明な政策措置をとることなどを全く考慮に入れていない偏った議論だ。それどころか、これはむしろ機会だという意見の方が多い。つまりエネルギー転換が世界経済を動かし、新たな投資と技術革新と需要を生み、成長と雇用を起爆するという議論にまでなっている。だから今は日本経済界はもちろん、世界中のビジネスが大きく乗り出しているのだ。炎熱地獄で成長などあり得ないという考えだ。
それに化石燃料資源は座礁資産になるという議論も、ビジネスを動かしている。こうなれば化石燃料関連企業の財務投資情報を公開しなければ投資家が損する。金融安定理事会(FSB)で、ディスクロージャーの基準を決める段取りに入った。FSB議長でイングランド銀行のマーク・カーニー総裁が提唱し、主査にマイケル・ブルンバーグ前ニューヨーク
日本は不服なのに、世界ではなぜこれほどのこと、つまり化石燃料からの決別を決めてしまったのか? 多様な理由があるが、第一に国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の科学がモノを言った。世界の圧倒的多数の科学者が、温暖化の深刻な危険に強い警告を発した。ごく少数の懐疑・否定論を除き、世界はこの警告に耳を傾け、この問題を解決しろ、と政府に強く迫った。パリ協定はその産物だ。
次に歴史観と将来ビジョンを持った政治家たちの指導性も重要だった。
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