科学・技術のデュアルユース(用途の両義性)にどう向き合うか
2015年12月28日
ノーベル賞は、ダイナマイトなどの発明で巨万の財を成したアルフレッド・ノーベル(1833-1896)の遺言に従い創設された。遺産を管理する財団が毎年受賞者を選考している。なぜ、ノーベルがこうし遺言を残したか、ご存じであろうか。
彼は親の代からの発明家で、特に爆発物の化学を深く研究した。その結果、採掘や土木工事に重要なダイナマイトを発見。特許を取り、財を得た。1888年、兄のリュウドビックがカンヌで客死。これをアルフレッドと勘違いしたフランスのある新聞が、「死の商人、死す」と報道。「ノーベル博士:可能な限りの最短時間でかつてないほど大勢の人間を殺害する方法を発見し、富を築いた人物が昨日、死亡した」と書いた。
それを知ったアルフレッドは死後の評価を恐れるようになる。その結果、死の1年前、税金などを除いた全財産を基金にして、ノーベル賞を創設する旨の遺言状に署名した。
これこそ、科学・技術のデュアルユース(用途の両義性)の典型的な例である。両義性とは「一つの事柄が相反する二つの意味を持っていること。対立する二つの解釈が、その事柄についてともに成り立つこと」を意味する。ノーベルは土木工事に革命をもたらしたが、同時に戦争の規模を大きくすることになった。彼の発明は平和にも戦争にも貢献する両義的な発明であった。ノーベル自身、ダイナマイトの軍事応用でも大いに儲けたようだ。兄の死の報道がなかったら、彼は死ぬまで自分の発明の両義性の意味を理解することはなかったのではなかろうか。
私は9月まで大阪大学に所属し、レーザー核融合研究を進める同僚と議論してきた。本論ではまず、「レーザー核融合は核保有国の米、英、仏、中、露で盛んに研究されているが、拠出される予算は全て国防研究が目的である」という現実を直視することから始めたい。
平和利用として予算化されてきたのは日本だけである。ドイツにはレーザー核融合の装置はない。なぜなら、敗戦国ドイツは東西に分かれ、西は米・仏・英から、東は旧ソ連からの研究監視が東西統一の1990年まで続いたからである。日本は1952年にサンフランシスコ条約で曲がりなりにも独立を取り戻し、原子力関連研究も解禁された。
レーザー核融合研究はこのように平和と軍事の両義性を有し、むしろ、現状は軍事研究が色濃い分野である。国際核戦略の合意(包括的実験禁止条約:CTBT)の1996年、核保有国の合意を経て、核実験は地下から実験室に移り、レーザー核融合実験となった。そのために米国は4千億円かけNIFという巨大なレーザー装置を建設し運用している(図2)。
私はこうした軍事研究と袂を分かつべく、20年ほど前、大型レーザーを活用した「実験室宇宙物理学」という基礎科学の新学術分野を提唱した。実験室で超新星など宇宙現象の模擬実験を行う学問だ。
幸い国外に賛同者を得て、2年ごとの国際会議も立ち上げ、来たる2016年開催で20年目を迎える。新分野提唱で路線変更できたことが、明確な両義性の後ろめたさを解消してくれ、前向きに研究に向かわせてくれた。
このように研究途中でその両義性に気づけば、大きな予算で建設した装置であろうと研究目的の方向転換が必要だと私は考えている。ところが、
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