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「国産漆100%利用」を掲げた文化財建造物修理

日本文化に欠かせない素材の自給率は、わずか3%

米山正寛 ナチュラリスト

漆は、ウルシの木の樹皮に傷を付けて採取される漆は、ウルシの木の樹皮に傷を付けて採取される
 漆は英語で“japan”と呼ばれる。正月など晴れの日の食卓を彩る豪華な漆器や貴重な建物の塗装などにも使われ、日本の文化を語る上で欠かせない素材であるという点は、多くの人が認めるところだろう。そんな漆の研究者や利用者たちが集まる「漆サミット2015」が12月4~6日に開催され、初日のシンポジウムのテーマは「文化財建造物への国産漆100%利用に向けて」だった。今、なぜこんな話題が取り上げられたのだろうか。

 今年の2月24日付で、文化庁は各都道府県の教育委員会に、国庫補助金を用いて実施する国宝・重要文化財建造物の保存修理では、使用する漆を原則、国産漆とすることを通知した。日本の文化財建造物は創建当時、国産の漆を使って建てられたはずだ。それならば、文化の継承のためにも本来の工法や素材を用いて修理しなければならない。そうした考え方がようやく受け入れられ、外国産の輸入漆と併用していた従来の修理の在り方が、大きく見直されることになったわけだ。

 日本における塗料としての漆の歴史は長い。漆を採取するウルシの木は中国から渡来したという説が有力だが、少なくとも約7000年前には塗料として漆が利用されていたとみられる。実際、各地の縄文時代の遺跡から、漆が塗られた椀や櫛などが出土している。平安時代からは平等院鳳凰堂や中尊寺金色堂のような仏教建築に用いられるようになり、江戸時代に至っては日光東照宮の本殿や陽明門に代表されるように、建造物へ荘厳さを付加する重要な役回りを果たすまでになった。この時代には、特産工芸品としての様々な漆器生産も各地で広がった。

 こうした需要を支えるため、江戸時代には多くの藩がウルシの植栽と漆の採取を奨励した。その頃、国産漆の生産量は1125tほどだったとの推定がある。ところが、

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