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防衛費5兆円突破、デュアルユース研究はどこへ?

異なる三つの議論の流れ、日本ならではの研究倫理の確立を

高橋真理子 朝日新聞 科学コーディネーター

 2016年度予算案で、防衛費が5兆円を突破する。第2次安倍政権になって4年連続で防衛費は増え続け、ついに史上初めて5兆円を超える。今年は防衛省の予算で「安全保障技術」の研究を支援する制度がスタートした年でもある。大学や研究所、企業から広く提案を募り、有望と見なされたものに研究費を提供する。1月に発表された東大の濱田純一総長の「軍事研究の禁止について」の談話は、「原則について一般的に論じるだけでなく、・・丁寧に議論し対応していくことが必要」と、この制度への応募に事実上のゴーサインを出すものだった。民生中心で優れた技術を生みだしてきた日本が変容してしまう。そこに強い危機感を持たずにいられない2015年だった。

拡大

 総長談話のキーワードは「デュアルユース」だ。「用途の両義性」と説明される。デュアルユースをめぐっては、さまざまな場面で議論されてきた。だが、日本においてそれはいつも「輸入」された議論だった。研究者たちは、咀嚼(そしゃく)に精いっぱいで、自分たちの倫理を打ち立てることなく、海外で決まったことを取り入れる、もしくは無視するということに終始してきたように見える。それをいいことに「軍事技術」を「デュアルユース」と呼び替えることによって防衛省(あるいは安倍首相)の望み通りの改革が行われてきたのが、この数年ではなかったか。

 デュアルユースの歴史を知るのに役立つのが、2007年に社団法人日本機械工業連合会の日本戦略研究フォーラムがまとめた報告書だ。とくに添付資料として収められている米国の安全保障関連シンクタンクの一つ「パイパー・パシフィック・インターナショナル」による「デュアルテクノロジー報告書」が参考になる。

 ことの発端は、1960年代以降、米国防総省が技術開発に多額の予算を投じているにもかかわらず、民間の技術開発に負ける事態が頻発したことだった。かつて私は日本の研究者から「日本は国防予算がないから」という言葉を「だから米国のようには成果が出せない」という文脈で聞いたことが何度もある。ところが、当の米国は国防予算をつぎ込んでも民間に負けることに悩んでいたのである。コンピュータ―の開発を思い浮かべればすぐに合点がいく。こうして、軍事技術は軍で開発するという方針を改め、「デュアルユース」、つまり民間で開発された技術の軍事転用に着目するようになる。

拡大陸上兵器の国際展示会「ユーロサトリ」の日本ブース=2014年6月16日、パリ郊外、吉田美智子撮影

 1990年代、国防総省は民間が開発した技術の軍事転用計画に総額10億ドルを投じた。これは、「かなりの恩恵をもたらした」と総括され、次の「デュアルユース応用計画」につながる。一方、企業と国防総省が一緒に新しい科学技術を開発する「デュアルユース科学技術計画」もスタートした。しかし、こちらは数年で終了する。開発費を軍民で折半する仕組みが企業側に嫌われたのと、生み出された成果に関する権利の帰属問題もあったからだという。

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筆者

高橋真理子

高橋真理子(たかはし・まりこ) 朝日新聞 科学コーディネーター

朝日新聞 科学コーディネーター。1979年朝日新聞入社、「科学朝日」編集部員や論説委員(科学技術、医療担当)、科学部次長、科学エディター(部長)などを務める。著書に『最新 子宮頸がん予防――ワクチンと検診の正しい受け方』、共著書に『村山さん、宇宙はどこまでわかったんですか?』『独創技術たちの苦闘』『生かされなかった教訓-巨大地震が原発を襲った』など、訳書に『ノーベル賞を獲った男』(共訳)、『量子力学の基本原理 なぜ常識と相容れないのか』。

 

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