パリ協定以降の議論を俯瞰する
2016年02月01日
パリ協定が採択された直後、ハーバード大学のネーオミ・オレスケス教授はガーディアン紙に次のように書いた。
これでやっと温暖化否定論の商人たちはいなくなったと思ってはならない。否定論は異形で再現している。それは再エネだけでは問題を解決できない、原発が不可欠だと云う言説だ。
同教授はCOP21交渉の最中にジム・ハンセン博士らが「気候変動を防止するには原発を即時、大規模に導入することが必要だ」と論じたことを紹介している。
ハンセン博士らは何を主張しているのか? パリでの記者会見とガーディアン紙への寄稿から洗い出してみる。
…温暖化は前例のない道徳的挑戦だ。これを我々が解決しなければ将来世代を止めようの無い温暖化に突き落とすことになる。防止するため全ての手段を最大限に活用するべきだ。エネルギー需要は今後急速に増大する。原子力発電、特に次世代原子炉はこの問題に対応できるような大規模でクリーンなエネルギーを提供する。
しかし、再エネにはそれが出来ない。再エネは安価でも無いし、信頼性も無い。世界のエネルギー需要に対応する大規模化は不可能だ。再エネで100%エネルギー需要を賄えるとする意見は再エネの不安定さを軽視している。それに現実的でない仮定を置いている。温暖化防止は希望的観測や感情や偏見でなく事実に基づくべきだ。原子力無しに温暖化を防止する信頼性のある径路は存在しない。
原子力は無限のクリーン・エネルギーを恒久的に供給し、世界文明を稼働出来る。廃棄物の処理は技術的に可能だ。原子力を道具箱から排除すると温暖化防止は失敗する。今後原子炉を毎年115基ずつ2050年まで建設し続ければ、世界の電力を完全に脱炭素化し、同時に途上国の人口の急増に対応し、世界経済の成長を可能にする。フランスとスウェーデンが過去20年程度でこの規模の原発建設を実現したことからして実現できないことはない。ただ、安全確保と拡散防止のため強固な国際協定が必要だ。安全を保障する技術は既にある…。
こうした原発必要論はパリ協定が出来た直後から攻勢に出ている。一つの例は米国のフォーブス誌の記事だ。この記事はこう論じている。
…2℃目標実現のためには世界の電力供給は2050年に脱炭素化している必要があるが、それは再エネだけでは不可能だ。再エネと原子力のミックスが不可欠だ。原子力は既に成熟した技術でその導入を阻むものは政治的・社会的なものでしかない。次世代炉は安全で安価だ。パリ協定が出来た以上、勇気を出して原発推進を訴えるべきだ。IEAによれば全世界の原子力の設備容量は現在の400GWから2050年1000GWにする必要がある。
ハンセン博士の思想を支持する学者や専門家、電気事業者、原発ビジネス関係者は非常に多い。多数ある専門家団体の一つである「Third Way」は小型モジュール炉(SMR)が近く実用化され、工場で組み立てられサイトまで運搬され工期も経費も大幅に縮小されると論じている。小型モジュール炉を超えて、更に革新的な次世代原子炉の可能性も論じられている。また、今回のCOP21においてビル・ゲイツ氏らが発表した「ブレークスルー・エネルギー同盟」の展開にも期待が集まっている。国としては中国とインドの原子炉建設のテンポに期待感が寄せられている。
原子力発電を推進する動きは国際的に以前から強かったが、温暖化防止が急務になるにつれて、原発を切り札として推進する動きは更に勢いを増した。ハンセン博士らの動きはその一部にすぎない。Neutron Bytes というサイトには多数の団体のリンクが掲載されている。日本語では「Forum on Energy」がある。欧州にはForatomと云う団体が活動している。この団体は欧州原子力産業の声を代表する団体で、「Nuclear for Climate」 と云う旗印で運動を展開している。また、IAEAも原発推進に熱心だ。
一方、こうした必要論に反対する意見(たとえばRINALDO S. BRUTOCO氏やJOHN MECKLIN氏)もまた、数年前から大きな勢力になっていて、両者の間で激論が戦わされている。では、国際機関はどう論じているのか?
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