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シャープ買収の行方を占う

液晶パネル技術の帰属先次第で空中分解も

湯之上隆 コンサルタント(技術経営)、元半導体技術者

 経営不振に陥っているシャープは、一度は官民ファンド産業革新機構の再建案を受け入れたと思われたが、1月30日に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長と直接交渉した結果、鴻海案に翻意したようだ。

 シャープの高橋興三社長は、「大阪人的な言い方で『(価格を)つり上げたろか』という気持ちは全くない」と語ったと報道されている(2月5日、日経新聞)が、実に怪しいものだ。

 そもそもシャープは、出資金の大半を国が出している革新機構が支援するべき会社なのか。また、鴻海にとって買収する価値のある会社なのだろうか。

 本稿では、まず、革新機構と鴻海の再建案について比較する。次に、革新機構が支援するべきか否かを論ずる。さらに、液晶パネル、特に「IGZO(イグゾー)」の特許の面から、シャープが買収に値する会社なのかどうかを述べる。

革新機構と鴻海のシャープ再建案

 二つの再建案を表1に示す。革新機構案では、3000億円規模をシャープ本体に出資し、加えて2000億円の融資枠を設定する。さらにみずほや東京UFJ銀行に最大3500億円の支援を要請することになっている。一方、鴻海案では、合計7000億円を出資する。大規模な銀行支援は求めない。

 リストラにおいては、革新機構案では、赤字を垂れ流している液晶事業を切り離して子会社化し、将来はジャパンデイスプレイと統合する。また、家電事業は、粉飾会計で苦境に陥っている東芝との統合を検討する。さらに成長性の乏しい事業者資産は売却する。一方、鴻海案では、従業員は現状維持するとされた。

 そして経営陣については、革新機構案では社長ら3首脳陣の退任を求めているが、鴻海案では続投を認めている。

 要するに、革新機構案では、支援規模に劣るだけでなく、シャープはバラバラに解体され、現経営陣は更迭される。ところが、鴻海案は基本的に現状維持であり、現経営陣が責任を取って退任する必要もない。

 シャープの経営陣が鴻海案に傾いたのは、支援額の大きさもさることながら、「現状維持」ということからくる保身に目が眩(くら)んだせいではないか。だとしたら、鴻海による買収がシャープのためになるかどうかは大いに疑問だ。

したたかな鴻海

 さらに言えば、したたかな郭董事長が、上記の条件をそのまま実行するかどうか分からない。

 というのは、2012年3月に、やはり経営不振となったシャープと鴻海が業務資本提携を結び、鴻海が1300億円を出資し、半分をシャープ本体に、残り半分を堺市の液晶工場に出資する計画だった。ところが、交渉中にシャープの巨額損失隠しが明らかになり株価が急落、工場への出資は行われたが、本体への出資は郭董事長が「だまされた」と怒り、こじれにこじれて行われなかったという経緯があるからだ。

 また、今回も郭董事長はシャープとの交渉後に、「雇用を維持するのは40歳未満の若手」「太陽電池事業以外は一体で再建(つまり太陽電池事業は売却?)」「優先交渉権の合意書にサインした」などと発言し、既にシャープとの認識の違いが明らかになっている。先が思いやられる。

シャープ買収は革新機構のやることか

 革新機構は、
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