大会ごとの条件差を数値で表すスキーのやり方を真似すればできる
2016年03月18日
そもそも陸連の設定記録(国内レースで男子2時間6分30秒、女子2時間22分30秒)はきわめてハイレベルだ。男子はだれも届いたことがない。女子は延べ6人がこれまで国内4レースで達成したが、2007年11月の東京女子国際マラソン(野口みずき選手)以来、途絶えていた。この過酷な設定記録を福士選手は達成し、かつ優勝もしたのに選ばれない可能性があった。そんな選考基準はおかしいと誰もが感じるだろう。
ではどのようにすれば良いのだろうか? 一番分かりやすい「一発勝負式」は何度も取り沙汰されているが、それで誰もが納得できる代表選びができるかは分からない。1988年のソウル大会の代表選考のとき、本来は福岡一発勝負だったところを、足に怪我をした瀬古利彦選手にチャンスを与えるべく特例としてびわ湖毎日マラソンでの結果で判断することになったのが、複数大会方式の始まりだった。
となると、複数大会で出来るだけ客観的に選べる規定を作るしかないが、ここでネックになるのが「異なる条件の大会を比較するのは無理」という考え方だ。全ての議論はそこで止まっている。
しかしである。異なる条件を比較するのは科学の世界では日常茶飯事だ。その際の基本が数値化である。マラソンだって、評価項目をリストアップしさえすれば、それぞれ数値化して、客観的な比較ができるはずだ。
ここでは男子マラソンを例に、その方法を提案してみたい。
過去の五輪選考をみると、評価項目は「タイム」と、世界のトップにどこまで付いていけるかという「タイム差」や「総合順位」、勝負強さという意味の「日本人順位」、「積極性(記録や優勝に挑戦したか)」、「暑さへの強さ」などだ。
タイム以外をどのように数値化するにせよ、立ちはだかるのは異なるレースの差をどう評価するかという問題だ。
そこで参考になるのが、スキーのワールドカップで既に行なわれている方法だ。新人の力を判断するために、エリート参加者が少ない小さな大会での成績を数値化しているのである。スキーは天気や雪質で毎回条件が大きく異なる。だからこそ数値化が始まった。原理は「世界トップが全員参加していたら彼らの平均タイムがどうなるかを大会ごとに算出する」である。
まず本大会に参加しているエリートたちを、過去12カ月の成績における「トップとの時間差」という数値で格付けする。一方、エリートたちが複数参加した予選大会での彼らの成績を彼ら自身の格付けも考慮にいれつつ平均すると、その大会にトップが参加したと仮定した場合の平均タイムを出せる。これをもとに、新人選手の世界トップとの差を推定できる。
トップグループ平均という、指標となる数字を使うところがミソだ。
トップグループ平均を使っての大会の標準化という考え方をマラソンにも当てはめると、エリートに当たるのが外国人招待選手だろう。その際、どんな大会でも発生する「不調な選手」の成績を取り除くことが肝要だ。従ってエリート参加者のうちの成績上位者の記録だけを参考にする(スキーでは上位3人となっている)。一般参加の外国人の成績を使わないのも同じ理由だ。
男子マラソンの例を表1にまとめた。福岡、東京、びわ湖の3つの大会で、外国人招待選手のうち過去2年以内にマラソン歴のある人をリストアップした。大会ごとに「平均してどのくらい記録が出にくかったか」が各表の最下段右端に算出されている。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください