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サクラ便りが聞こえたらホタルの観察を

光る幼虫の健気な姿にホタルのイメージが変わる

大谷剛 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

 サクラ前線はいま東北地方を北上中である。サクラ便りが聞こえたら、ぜひホタルの観察に出かけて欲しい。サクラの季節にはゲンジボタルはまだ幼虫で、水中で生活をしている。この幼虫が蛹(さなぎ)になるために上陸する。その見ごろがだいたいサクラの開花時期前後なのだ。サクラ鑑賞には天敵の雨がなければ、上陸は待つことになる。待望の雨がきて、幼虫の健気な行動を見届けたら、あなたもきっと感動するに違いない。

拡大ホタルの成虫=溝田保氏撮影

 ゲンジボタルは、水中で生活する数少ないホタル科の昆虫である。50種いる日本産ホタルのうち、水生の幼虫をもっている種は、よく知られているゲンジボタルとヘイケボタル以外では、クメジマボタルしかおらず、たった3種である。彼らの餌はカワニナやタニシのような淡水の巻貝類であり、他の陸生の種はカタツムリ類が栄養源である。世界のホタル科も似たような事情で約2800種が知られている。

 淡水産の3種には、陸生の種にはない問題が出てくる。水中にいる育ち切った幼虫は上陸して空気呼吸をする蛹にならなければならないのだ。いつ上陸すべきか。まず暗闇がいい。幼虫は無防備だからだ。そして、鰓呼吸から気管呼吸に変化しなければならないので、雨に濡れる必要が出てくる。

 サクラが咲いているころ(晴天に恵まれれば散ってしまってもいい)の雨の夜、幼虫たちは光りながら川岸の土手をゆっくり登ってくる。光の量は黄色っぽい成虫の光の1/5程度か。少し青っぽい。ウジ虫のような歩きをするので、人の目からは光が点滅している感じに見える。じわじわ・もそもそとゆっくり動いてくる。成虫に比べいかにも地味である。雨もしとしと降っている。三面張りのコンクリートの垂直の壁(用水路の場合)を登り切ると、土を求めて水平に移動する。そして、潜るべき土の露出部に到達すると、そこから潜り始める。土中に入ってしまえば光は消える。成虫の場合は光る仲間がどんどん増えていくが、幼虫たちは次々と光を土中に「消して」いく。観察者も傘をさして暗闇の中「ひっそりと」幼虫の光を観察する。

拡大ゲンジボタルの幼虫=吉田滋弘氏撮影
拡大暗闇の中を上陸するホタルの幼虫=吉田滋弘氏撮影

 このようなゲンジボタルの幼虫上陸を見たことがある人はほとんどいない。その分、見た人には大きな感動が訪れる。

拡大2007年のホタル幼虫観察セミナーの下見=溝田保氏撮影

 私が勤めていた兵庫県立人と自然の博物館では ・・・続きを読む
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筆者

大谷剛

大谷剛(おおたに・たけし) 兵庫県立大学名誉教授(動物学)

兵庫県立大学名誉教授、神戸女学院大学非常勤講師。1947年、福島県生まれ。東京農業大学卒業後、北大大学院に進み、(有)栗林自然写真研究所、(財)東京動物園協会を経て、兵庫県立人と自然の博物館と兵庫県立大学を2013年に定年退職。専門は昆虫行動学。『ミツバチ』(偕成社)、『昆虫のふしぎ─色と形のひみつ』(あかね書房)、『昆虫─大きくなれない擬態者たち』(農文協)など。

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